第3話 パラティヌス
ここもまた 川のほとりにできた街であった。
故郷との違いは 人々が 川の近くにある七つの丘に分かれて住んでいたことである。
もともとは 川に面した丘に洞窟を掘って住んでいたらしい。
やがて 洞窟が掘られた丘にそうように建物が作られ 今度は 川向かいの小高い場所にも建物が作られ
やがて 丘と丘とをつなぐ道もできた。
・・
ここの人達は 盛り土をして道を作るのが好きらしい
そして この道の目印に?あるいは風よけ・日差しを遮るために? 大きな松が植えられた。
いわゆるローマの松というやつだ。
根元の方はまっすぐで 上に向かって扇方に広がった枝枝が 独特の形になっている。
俺が 最初の夜を過ごした木でもある。
月明りの下、星空を遮るように茂ったあの木のシルエットは印象的であった。
・・
ふらふら飛び回り 人々の話を聞いているうちに
ここはトロイ戦争の帰りにエジプトにも寄港したギリシア人たちの末裔が作ったローマの地であることが分かった。
あの野蛮人たちは 女を口実にして トロイを攻め立て
帰国の途中にも あちこちの街を襲い
あげく 本国でも略奪と侵略と仲間割れを続けて ローマとよばれるこの町を作ったのだ。
あくことなき闘争心
はてることのない侵略への欲
なぜ 俺達のように大地と川と天の運行に従って実直に暮らすことができないのだ?
こんなに緑と水に恵まれた土地に生まれる幸せを感じないのか?
ここなら 存分に川の水を使って安定した生活がおくれるではないか!
おれなら この街に水道をはりめぐらせることもできるぞ!
できることなら 水を温めて湯に浸ってのんびりしたいものだ。
豊かな水の恵みは 水だけでなく緑をも育む。
つまりは 豊富なマキが手に入る
湯の中に全身をひたすことができたら どんなに気持ちが良いことだろうか?
こう考えた時 急に俺の全身が軽くなり ぱぁ~っとあたりが輝いて
気が付いたときには 俺は 赤ん坊として このパラティヌスに誕生していた。
・・・
彼こそが ローマに水道をもたらした設計士であり
後に生まれ変わって テルマエ建設とその普及に尽力した男である。
エジプトから来たミイラの中にとじこめられていたカーの転生物語はここでおしまい。
エジプトから来たカー 木苺 @kiitigo
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