第6話 終焉のあと
朝日が昇ってきて、白日が終焉に覆われた大地を照らす。
そこには、粉々になった船の残骸と大きく割れた大地があった。
そして、そこにいる者は例外なく何らかの理由によりその命を落としていた。それこそ人間に限らず。土中に潜む虫、微生物を含めたあらゆる命が、死んでいた。
唯一人を除いて。
白い着物を着た少女が、栗色の幼い少女を抱きかかえ、そこに立っている。抱かれている少女の胸は微かに上下しており、生きていることを示していた。
「これまた、派手にやったのう」
終焉の大地で、その張本人は呑気にそんなことを呟く。
「さて、一休みする前にもう一仕事することにしようかの」
少女の胸に穴が穿つ。それは己が人ならざる≪終焉を告げるモノ≫であるという事の証だ。
そして≪終焉を告げるモノ≫のいるところには、一つの特徴があった。
“終焉の徒”。
大地が赤く染まる。
万象を呑む終末の因子が頭を覗かせる。
“終焉の徒”は決して≪終焉を告げるモノ≫の配下などではない。仲間でもないし、そもそも見知った存在ですらなかった。
それは、ただの現象だ。
≪終焉を告げるモノ≫のいる場所に現れる、終焉という現象だ。世界の理を外れたモノへの終焉という天罰だ。
≪終焉を告げるモノ≫たるユウからすれば、それははた迷惑な話だった。しかし、否応なしに現れるのは仕方がない。己がそう言う存在なのだから。もちろん≪終焉を告げるモノ≫の傍だけに出現するわけではなく、各地でみられるものだが、≪終焉を告げるモノ≫の傍には確実に現れる。
現れる“終焉の徒”を一掃しようと、チカラを解放しようとする。
一歩踏み出そうとしたその時。
空から、角笛のような音がした。
咄嗟に上を向く。するとそこには、
「“勇者”、か」
黒い影のような存在だったが、確かに浮いているそれは“勇者”だった。それにしてはあまりに存在が希薄だが、感じる気配は“勇者”そのものだった。
“勇者”の影は手を掲げる、すると、先ほど聞こえた角笛のような響きが辺りを支配する。
見ると、ユウの殺した空の人々の身体が、“勇者”の下へ集ってきている。そしてそのボロボロの身体は、端々から光の粒子となって崩れていった。その全てを、“勇者”はいつくしむように撫で、粒子は空へ向かっていく。
──すまない、わたしの子供たち。
それは声が聞こえた、というよりも、その意味を魂に直接語り掛けるような“声”だった。
そして、最後の光の粒子が空へ溶けていく。けれども、“勇者”はまだ消えなかった。
カチ、カチ、コチ。
今度は時計の進む音のような駆動音が聞こえてきた。同時に船の残骸の、特に板や柱が積み重なった場所が盛り上がり始める。
そしてその下には、
「シラセ?」
青髪の少女が眠っていた。その体が浮かび、勇者の目の前に横たわる。見間違いだろうか、シラセの体に一瞬ノイズのようなものが入ったような気がする。そしてそのまま──。
「結局、シラセに何の用があるのじゃ、“勇者”よ?」
厚顔不遜に語り掛ける。
──何もしない、何もしたくない、何もできないお前には関係のないことだ
“勇者”もそれに答える。そしてそのまま空の彼方へ消えていった。
「わしも結構変わったんじゃよ」
“勇者”が消えた、大陸のかかる空を眺める。気が付くと、ユウの周りにいた”終焉の徒”が消えていた。ユウは何かする前だったのでどうやらシラセ回収のついでに“勇者”が消していったらしい。
いつも通りの、それなのに何故か久しく感じる蒼穹を見ながら、<幽かに揺れる彼岸の界>は、次に向かうべき場所を定め始めた。
終末が訪れました いみてさん偽 @imite3sinn
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