青薔薇の刑事ー更新終了ー

澤崎海花(さわざきうみか)

第1話

真夜中でなくても光も当たらない倉庫で女は刃物を持った男に捕らえられていた。

首筋に刃物を当てられて恐怖で涙を流す女は、男の殺意を煽った。

女はもう駄目だ、ここで死ぬんだ。と思った。

刃物が肉を裂いて入ってこようとした瞬間、倉庫に光が入り込んできた。

続いて男の顔が横に流れて、刃物が手から落ちる。

「ドロップキック、成功!」

若い少年の声が聞こえた。

光が目に慣れた時に初めて声の主を見た。それは自分よりも若い少年だった。黒髪の黒目の極一般的な高校生ぐらいの少年。

少年の後ろから別の人間が入ってくる。

染めたのとはまた違う茶髪で黒目の青年。

「成功、じゃねーよ!」

少年の頭を青年が叩いて、こちらも気にせずに喧嘩を始める。「俺の頭は神聖なんだぞ!」とか「はあ?どこら辺が?言ってみろ!」とか言って向き合い殴り合いを始める。

どちらも見事に相手の拳や蹴りを避けている。

ここが倉庫であんなことがなければ賞賛したいぐらいのものだ。

そんな二人は男をほっぽってヒートアップして行く。

そこをチャンスだと踏んだのか、男は立ち上がり少年の背中に刃物を突き立てようと走る。

それでも気にせず、殴りあっている二人に女は「危ない!」と声をかけた。

男の刃物が届く、あと一歩の瞬間に少年は男の頭を支えに宙を待っていた。

男はそれでも動かない、まるで時が止まったかの様に。

「お前の時間奪わせて貰ったぜ」

男に指を指しながら青年が言う。

少年が男の背中に辿り着いた瞬間に男は動き出す。しかし少年の回し蹴りの方が早く、男は壁に叩きつけられて呻き声を上げた。

男の隣の壁に穴が開く。誰もいないのにだ。まるで超能力みたいな…女はそこまで思って気が付く。

魔力持ち、だ。ということに。

「さて、これが何かわかるか?」

少年が男の隣の壁に手をつけて手帳を見せる。

その手帳には、青い薔薇の刺繍が施されていた。

「まさかー…魔刑…!」

「そのまさか、だよ」

反対側の壁にも大きな音を立てて穴を開け、男を恐怖で支配した。

それと同時に「警察だ!」という声と供にたくさんの警察官が入ってきた。

二人はそれを見て、顔を見合わせて忍び足で立ち去ろうとする。しかし、それを体格のいい年配の男の人が止めた。

「どこへ行くつもりだ?柚崎、金木」

名を呼ばれた二人は互いに互いを指差して、声を揃えて言った。

「こいつが悪いんです!」

「よーし!お前らどっちも悪いんだな」

年配の男の人の言葉に二人はえええと呟いていた。

そうして、怒られているのを見ながら女は警官に保護されて行った。


第一話 


20XX年、成人年齢は16歳に引き下げられ、魔力持ちと呼ばれるファンタジーで言う魔法を使えることを許された人間が産まれていた。

魔力持ちは産まれてから現段階でまだ、その迫害される立場にある。

その中で警察署内に魔力持ちの犯罪者を捕らえるために作られた組織がある。

それが、魔力犯罪刑事課。

魔力を持った犯罪者を専門とする、魔力持ちが魔力持ちを逮捕するための組織、警察手帳に刻まれた青い薔薇が証明である。

魔力犯罪刑事課、通称魔刑には16歳~60歳までの者が所属していた。

その中の天才、柚崎恵斗(ゆざきけいと)(16)と金木龍輝 (かねきりゅうき)(24)は署内の誰よりも優れた実績を持つものの行く先々で問題を起こす、問題児であった。

ピンクのクッションやオレンジの椅子、リボンだらけのカーテン。そして、警部の机だけフリルのついたピンクのカバーが敷かれていた。その中で異質な青い薔薇の刻まれた6台の机。

ここは魔力犯罪刑事課の部屋であった。

真っピンクなスーツを着た青年の前で柚崎と金木は正座をしていた。

青年はくねくねと動きながら二人に注意を施していた。

「分かる?貴方達のしたことは全てを台無しにするようなことなのよ?」

「分かってます、青柳警部」

金木はその言葉にそう答える。彼ー…青柳哲 (あおやなぎてつ)(47)は彼らの上司。そして、この部屋の装飾も青柳の趣味だ。

「分かってるなら、どうしてあんなことしたのかしら?」

柚崎はその言葉にそっぽを向いた。

先日の魔力犯罪者を捕まえるために行った倉庫で穴を開けまくったのを咎められている。

開けたのは柚崎だが、保護者としても相棒としても止めなかったことで金木も共犯と見なされた。

「ー…悪かった」

ぽつりと柚崎が呟いた。そして二人揃って頭を下げる。

「分かってるならいいわよ?貴方達の給料を引くだけだから、でもねぇ、龍輝くんは保護者としてちょっと教育がいるみたいねぇ?」

青柳の顔が金木と鼻と鼻がぶつかるぐらいの距離まで近付いた。それに対して金木は急いで身を引く。

「恵斗くんも安心しているようだけど、大丈夫よ?私が責任持って教育し直すから」

今度は柚崎に顔を近付ける。柚崎は姿勢を崩して後ろに向かって立ち上がった。

「大丈夫だって、言ってるじゃない。二人一緒に教育してあげるから」

言いながら二人に近付いて来る青柳から距離を取り、背中が壁にあたりもう逃げられないことを悟る。さようなら短い人生。柚崎はそう思った。青柳が二人の側に辿り着く前にデスクワークをしていた佐伯美波 (さえきみなみ)(28)が見兼ねて声をかけてきた。

「青柳さん、先程川内さんが呼んでいましたよ。ー…今日の夜のことで話があると」

その言葉に驚喜に満ちた顔で佐伯を見た。

「本当に!?川内くんやっと誘ってくれるのね!?分かった今行くわ、待ってなさい!!」

待ってなさいと言いながら青柳は部屋から出て行った。助けられたので佐伯に御礼を言って自分のデスクにそれぞれ座る。

パソコンの電源を入れて起動を待つ。

「ああああああ!!やっちまったぁぁぁぁ!!」

大声を上げて金木の前に座る九重悠太 (ここのえゆうた)(35)が何時ものように失態を犯している。

柚崎のパソコンは起動したようで、カチカチと打ち出すが、まだ金木のパソコンは起動していなかった。

「はよー…あれ、青柳は?」

「出かけてますよ、おはようございます夢澤さん」

あくびをしながら遅れてやってきた夢澤花音 (ゆめざわかのん)(39)に警部補である井沢幸太 (いざわこうた)(41)が挨拶をした。夢澤は柚崎の前に座った。夢澤は遅刻常習犯であり、金木が入る前からずっとそうだったらしくもう諦められている。

金木のパソコンは未だについていなかった。

「あー…あー…あー…」

「うるさいよ、九重」

佐伯が九重を叱るが九重の呻きは止まらない。とうとう見兼ねて金木はどうしたのか聞いた。金木のパソコンは画面が暗くなったまま動いていない。

「え、手伝ってくれるんすか!!いやー…助かるっす。あれ、でも…金木サンのパソコン壊れてません?」

九重は金木の後ろにまわってきてそう言った。隣でクスクスと柚崎が笑っていることに気がついて、殴る。

するとまたあの時と同じように殴り合いが始まった。

「大変よー!殺人事件よー!龍輝くん、恵斗くん、あと悠太くん!ここに向かってぇ!」

乙女走りをしながら入ってきた青柳の言葉に従って外へと出た。

キープアウトと書かれた黄色いテープをくぐって奥へと進めば、海が見えた。

その前に川内や川内の部下が死体を見つめていた。そこに向かってずんずん進んでいく。

「穴ボコくんがいる」

野次馬の方を見つめて柚崎がそう呟いた。

「穴ボコくん!?どこ!?」

九重が野次馬の方へ向かって行き穴ボコくんを探している。その姿を見ながらため息をついた。

穴ボコくんは正式名称を穴ボッコボコと言う。この街のゆるキャラだ。

穴ボコくんはその名の通り、穴だらけの体をして全てを見透かしたような黒い目をしている。穴だらけの体の下の方はいつも毛むくじゃらのおっさんの足が見えている。

きっと中の人はかなりのおっさんに間違いがない。しかし、九重にはかなりの人気だ。

何でも可愛いと言っていた。

ああ、確かにかわいいよ、足さえ見なければ。

「りゅう、ちょっと見て」

いつの間にか死体の近くに立っている柚崎が大声で金木を呼んでいる。

近づいて行けば、ビニールシートで隠し切れないぐらい大量の血がついている。

それを見て違和感を感じた。死体にかかったビニールシートを捲れば、至って綺麗なままで、刺し傷もない。

たが、大量の、全身の血だけが抜かれている。

こんな器用なこと今時、魔力持ちじゃなきゃできないだろう。

「恵斗、出番だな」

「うん、りゅうもそう思うよね」

二人で顔を見合わせ頷くと人混みの方から「なんで、こんなに問題児が多いんだ!」という川内の叫び声が聞こえてきて御愁傷様と思った。

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