篠宮博市の怪奇録
鷲羽海兎
1ページ目 遭遇
7月27日の朝、時刻は7時半、リビングにあるテーブルの上に父からの書き置きがあった。
博市へ
母さんの手がかりを掴んだ。この手がかりを元に母さんを探してくる。しばらく家を開けるが、依頼人が来たらお前が依頼を解決するんだぞ。また近いうちに連絡をする。
「2年か…何か、長かったのか短かったのかわかんないな」
そう思いつつ僕はコーヒー豆を挽いていた。
8時、僕は先程挽いていたコーヒーとフレンチトーストを頂いていた。
「思っていたよりもアメリカンになったな…」
9時になって僕は事務所の方へ移動した。母さんが行方不明になるきっかけとなった事件、それとその事件と似通った事件の資料を読み漁っていた。
すると突然、事務所のドアからコンコンと音がした。
どうやら仕事というのは僕の事が好きなようだ。
「少々お待ちください」
僕はドアの向こうの依頼人にそう言い、読み漁っていた資料を片付けた。
「お待たせして申し訳ありません。どうぞ中…へ…」
ドアの向こうにいたのは同級生の
気を取り直して、僕は彼女を事務所の中へ通した。
「とりあえずそのソファに座って、コーヒーか紅茶、どちらがお好みかな?」
「それじゃあ、紅茶で…」
数分後
「どうぞ」
「その…ありがとう」
「気にしないで、他の同業者はどうか知らないけどうちは基本こんな感じだから。それより、家じゃなく、
彼女は静かに頷く、そして紅茶を一口飲み、口を開いた。
「その…実は、姉を探して欲しいの」
「
彼女の話を要約するとこうだ。事の発端は3日前、暁乃先輩は17時半ごろに、「友達に呼ばれたから出かけてくる」と言い家を出た。ところが、22時をすぎても帰ってくる気配がなく、次の日になっても帰ってこない。連絡を取ってみたが、反応が全くない、との事だった。
「あの真面目な暁乃先輩がね…」
彼女の顔を見ると今すぐにだも泣き出してしまいそうな顔をしている。
「大丈夫!僕が必ず暁乃先輩を見つけるさ」
これ以上彼女の悲しい顔を見たくない。僕も、大切な家族がいなくなった時は自分を抑えきれなかったから…、そう思ったら自然とこの言葉が出ていた。すると彼女は、感情を抑えきれなかったのか涙を流しながら「ありがとう」そう口にした。
少し時間が経ち、落ち着いた彼女に幾つか質問をした。
「暁乃先輩は、友達に会うと言った。これは間違い無いかい?」
彼女はコクンと頷いた。
「それじゃ次に、その友達の名前とか言っていなかったかい?」
「確か、入野先輩の所に行くって…」
「ああ…入野先輩か、てことは生徒会関係か?いや、それだったらメールで済む話だと思う、直接会う必要はない。とりあえず今はここで考えるのを止めよう」
「大丈夫?何かすごい考えてたけど…」
「ん?ああ…大丈夫、僕の悪い癖が出ただけだから、それより、暁乃先輩は何処に向かうか言っていなかったかい?ほら、例えば…公園とか」
「そう言えば、
阿積島公園か…ここからだと地下鉄に乗った方が早いな。
「ありがとう、これで捜査ができるよ。それと、今ここには僕達しないから、家まで送って行くよ」
「流石にそこまでは…」
「気にしないで、僕のモットーは依頼人の信頼と安全が第一だから。それに今は夏休みだ、学校という縛りがないこの時期が僕は1番動きやすいからね。それに、学校に行ったら部活とかで入野先輩は来てるかもしれないし」
そう言い僕達は事務所を出た。
「今更だけど警察には通報した?」
彼女は頷いた。
「そうか、てことは警察はもう動いているかな?」
そんなことを考えていると、彼女が尋ねてきた。
「あの…篠宮君は、探偵…なの?その…一応ここネットとかすごく有名で、だけどあなたがいて、ビックリしたけど、あまりにも自然すぎて」
彼女の言うことはもっともだ。学校では僕の家の事情はほとんど話したことがない。うちのサイトを見て同じ苗字の人だと思ったのだろう。
「ああ〜ほら、僕の父親が探偵をやっているから僕はまだ探偵助手の立場にいるんだけど、今は父親が別件でいないから、所長代理みたいになってるんだよ。こう見えても探偵歴はそこそこあるから」
僕について話していると、いつの間にか阿積島駅に着いていた。
「本当にごめんなさい。ここまで送ってもらって」
「僕が好きでやってるだけだからいいんだよ。本当は家の近くまだ送った方がいいんだろうけど…あっそうだ!これ渡すよ」
そう言って僕は彼女に自分の名刺を渡した。
「裏に僕の電話番号が書いてあるから、何かあったら連絡ちょうだい」
そう言い僕は彼女と別れた。
僕はふと、時刻が気になり携帯確認した。所時刻は10時半。
「10時半…なら、ここから近いし学校から先に行くか。この時間なら生徒もそこそこ来てるだろうからな」
そう呟き僕は学校へ向かった。
阿積島公立高等学校、僕達が通う高校。駅から徒歩15分のところにあるこの高校は、開設から15年程度で歴史がまだ浅い学校だが偏差値はそこそこ高く、
「って、僕は誰に解説しているんだ」
自分自身にツッコミを入れた。
まあ、そんな感じで、校門前をうろうろしていると、突然肩を叩かれ、声をかけられた。
「お前、篠宮か?ここで何してる?」
そこにいたのはうちのクラスの担任だった
「先生、いきなり肩を叩いて声かけるのやめてくださいよ。びっくりするんですから」
「ハッハッハ!すまんすまん!ところでお前、学校に忘れ物でもしたのか?」
そう先生が尋ねてきた。
「いえ、今回は
「入野か?入野は今、中でバレーボールをやってるはずだぞ」
「そうですか。中に入っても?」
「お前もここの生徒だろ?許可なんて要らんよ」
「ははっ、確かに。」
僕は先生に一礼をして、校舎の中へ入りちょっと寄り道をしつつ体育館へと向かった。
体育館では、バレーボール部とバドミントン部が活動をしていた。
僕は邪魔しないよう少し離れた位置でバレーボール部を見学していたがバレーボール部の周りには大勢の人達がいた。
人だかりからは「入野先輩!こっち見て〜!」やら「きゃ〜//こっちに手を振ってくれたわ!!」など、それを見て呆気を取られていると、こちらに気づいたバレーボール部の顧問が僕のところに来た。
「そこのあなた、ここで何をやっているの?ここは入校許可がなければ入れないのだけど」
どうやら先生は僕のことを不審者だと思っているらしい。まあいつもは制服だから気づいていないだけかもしれない。そう思い先生の疑問を解消しようとした。
「ひどいな〜先生、教え子の顔を忘れるなんて、篠宮博市ですよ」
そう言うと先生は僕の顔を数秒間見つめてきた。
「本当に篠宮君だ…」
「だからそう言ったじゃないですか、そんなに違います?」
そう尋ねてみたところ、どうやら相当僕の雰囲気が違うらしい。そんな話をした後、先生は小さくコホンと咳払いをし、話を切り出した。
「それで、篠宮君は一体、なんの用事でここへ来たのかしら?まさか、変質者紛いの事をする為にここへ来たわけではないでしょう?」
「ええ、実は入野先輩に用がありまして…」
僕は仕事のことを伏せつつ、事情を話した。
「そう…わかったわ。でも後3分ほどで休憩が入るから少し待ってくれるかしら?」
そう言われ、僕は頷き、先生は部の方へと戻って行った。
3分が経ち、ホイッスルの音が聞こえた。それと同時に、ボールの跳ねる音が止んだ。どうやら、休憩に入ったらしい。
そして、入野先輩と思しき人物がこちらに向かって歩いてきている。
それも、とても丁寧な歩き方で…思わず見惚れてしまいそうな程美しく、優雅な歩き方、バレーボールの練習で疲れている筈だが、そのような様子は一切感じられない。
彼女への視線は僕だけでなく、この体育館にいる全員が彼女へ視線を向けている。
所々から「今日も入野さんは美しい」などが聞こえてくる。やはり、社長令嬢だからか、人気とカリスマ性が凄まじい。
正直、僕が声を掛けていい存在では無いとすら思えてしまう。
そして声がかけられた。
「貴方よね?篠宮博市君は?なんの用かしら?残念だけど、告白やラブレターはお断りしているの」
「そうですか…確かにそれは残念だ、ですが今回はそんな用事では無いんですよ。では、改めまして、初めまして、私、篠宮探偵事務所に在籍している、篠宮博市と申します。以後、お見知り置きを」
「これはご丁寧に、私は阿津島高等学校3年D組、生徒会会長の
彼女はそう謝罪をしたが、正直僕の方が謝罪をしなくてはならない。これから事件のことを話さねばならないから…
「先輩、いや、美波さん、申し訳ありませんが移動しませんか?少し人の目から離れたところで話をしたいのですが…」
彼女は少々悩んだ後「構いません」と答えてくれた。
「それと、これから話すことは他言無用でお願いします。今回私は仕事でここへ来たので」
「そんなに重要な話ですか?」
僕は静かに頷いた後、体育館に行く前に許可を貰った応接室に美波さんを案内した。
「先に美波さんに謝っておきます。申し訳ありません。これから貴方に話すことは少々酷な話です。もしこれから出す私の質問に答えられなかったら答えなくても構いません」
そう尋ねると美波さんは少し強張った表情で「はい」と答えた。
「わかりました。実はですね、今日私のクラスメイトである平井響子さんから一つの依頼を受けました。それは、平井響子さんの姉である平井暁乃さんを探して欲しいと…」
美波さん「暁乃さんが!」と驚いた表情で言った。それと同時に少量の汗が額から流れ出していた。
無理もない、仲の良かった友人や家族がいきなり行方不明となったら誰だって恐怖や不安を感じる。
無論例外はあるかもしれないが、それは全人類に当てはまる。
だけど美波さんは、その恐怖や不安をすぐ消した。
「それはいつ頃ですか?」
「ついこの間、具体的には3日前の夕方17時半頃です。その頃、貴方が何をしていたのかをお聞きしたいのです」
ここで出た証言と響子さんの証言が矛盾していたら、どちらかが嘘をついたことになる。
だが、今日依頼をしに来た響子さんが嘘をついているよには感じとれなかった。
美波さんだって嘘をつく様な人じゃないのはわかっているつもりだ。
だからこそハッキリさせたい。
「その時刻の頃、私は確か…自宅で課題をしていました」
「と言う事は、外には出ていないと?」
「ええ、間違い無いです」
「スマホなども使用していませんか?」
「スマホはお母様に預けていました」
「失礼ですが、スマホのメールを確認しても?」
美波さんはスマホのロックを開き、メールを開いて見せてくれた。そこには7月24日でメールは止まっていた。
暁乃先輩は入野先輩に会う為阿津島公園へ向かうと響子さんに言い、家を出た。だが、入野さんはその頃携帯電話は使用しておらず、家から出ていない。
「美波さん、いきなりこの様な話をして申し訳ありません。そして、ご協力していただきありがとうございます」
「いえ、あまりお力になる様な事はしていません」
「十分な情報を得れましたよ。後、改めてこの事は他言無用で…」
「承知しています」
「あっ、そうだ!これ、渡しておきます」
そう言い僕は響子さんと同じ様に名刺を差し出した
「これ僕の電話番号が書いてあるので何かあったら、連絡ください」
そして僕達は応接室を出て体育館まで、美波さんを見送った。
美波さんを見送った後、僕は校舎を出て駅へ向かいながら考え事をしていた。
今回依頼をしてきた響子さんは嘘をついている様な感じはしなかった。
そして、美波さんからも嘘をついている様子はなかった。
実際にメールの内容も見せてもらった。
となると、自然と暁乃先輩が嘘をついた事になる。
だけど、なぜ、響子さんや親に嘘をつく必要があったのか。
どうして、行方を
「見つけ出して直接聞くしか無いか…」
そう呟いた後、違和感を感じた。
本来、聴こえるはずの足音や人の話し声が聞こえず、静寂だけがあった。
あたりを見回しても人はおらず、それどころか風さえ感じない。
この不可思議な現象を目撃して、僕は少し動揺していた。
つい先程まで居たであろう多くの人達が、ほんの少し考え事をしていただけで消えてしまったのだ。
何が何だかわからず、頭の中を整理しようとした時だった。
「ヤア、始マシテ。篠宮博市クン。」
後ろからそう声をかけられ、咄嗟に振り向いた。
そこにはボロボロなフードを被った人が立っていた。
その者はフードが邪魔をし、顔が見えないが何故かそのフードの人を知っている様な気がした。
「誰なんだ…貴方は、何故、僕の名前を?」
僕は恐る恐るそう尋ねた。
「私ハ、
元々?どう言うことだ?僕はHPに名前や顔写真を載せていないんだが…今は置いておこう。
「その探求者さんが一体なんの様ですかね?僕は今、仕事の途中なんですが…」
「私ハ君ニ、忠告ヲシニキタ」
「忠告?」
「アア、君ハコノ先ニ進メバ、今、君ガ実感シテイル日常ニ戻ルコトガ出来ナクナル」
「…理由を聞いても?」
「理由カ…簡単ナコトダ。今ノ君ニハ想像モ出来ナイ異質ナ存在ガ、君ヲ襲ウ」
「異質な存在?それは、一体…?」
「私カラハ言エナイ。ダガ、今君ガ受ケテイル依頼ヲ破棄スレバ、君ハ今ノ日常ノママ暮セルコトヲ保証シヨウ」
「……何故僕を知っているのか、何故依頼のことを知っているのかいろいろ聞きたいところだが今はやめておこうら折角の忠告有り難いけど、僕は依頼人の笑顔が1番なんだ。だから、僕は続けるさ。この先何があっても」
(嗚呼、ヤッパリカ…君ハ何処マデ行ッテモ…)
「ソウ言ウト思ッテイタ…ナラ、ソンナ君ニ、私カラプレゼントダ」
フードの人は、懐から古ぼけた本の様なものを取り出した。
「それは?本のように見えるけど…」
「本デ合ッテイルガ、チョット違ウ。マア、読メバワカルガ…正気ヲ保テル様ガンバルンダナ」
「ちょっ…それどう言う…」
気がつくと、人がいる元の風景があった。ただ、手元には一冊の古ぼけた本があった。
僕はあまりの出来事に、自分の正気が減っているのを感じた。
僕の減った正気を落ち着かせる為に、近くにコンビニがないか探した。
数分歩き、コンビニを見つけた。
中に入り缶コーヒーとシガレットを買いつつ、「経費で落ちるかな?」と呟いていた。
コンビニを出てスマホで時刻を確認したところ、時刻は11時57分を指していた。後3分で昼の時刻、昼ご飯をコンビニで買おうと思ったが、ついさっき店を出たばっかという事もあり、入り辛い。
そこで行きつけの喫茶店に行く事にし、缶コーヒーを一気飲みした。
12時6分、僕は、行きつけの喫茶店ClariS《クラリス》に来ていた。
ここは料理や雰囲気もそうだが、マスターの人としての良さをよく感じる。
例えるとするなら、なんと例えたらいいのか…優しさが溢れていると表現すればいいのかな?
こんなにいい喫茶店を僕はなかなか見たことが無いと言えるだろう。
ClariSの中に入り、カウンター席へ向かった。
「やあ博市君、いらっしゃい。今日は泰斗さんと一緒じゃ無いのかい?」
「今日父は別件で行動しているんですよ」
「そうか…博市君、メニューはいつもので良いのかい?」
「ええ、お願いします」
「少々お待ちを」
マスターの年齢は、大体五十代後半から六十代前半の男性で、この街をとても愛している人でもある。
このClariSもこの街ではとても有名で知らない人は多分いない。そのくらい街からも愛されている。
マスターが料理を作ってくれている間に、僕は、あのフードの人から貰った本を読む事にした。
本の表紙はボロボロでタイトルは読めなかった。
好奇心は猫をも殺すとはこの事なのだろう。
僕は好奇心で本を開いた。
本に書かれている文字は見たことの無い文字で何と書かれているか解らない、いや、解かるはずが無い。
けど何故か、頭の中に直接書き込まれている様な悍ましい感覚と、奇妙なイメージが僕を襲う。
「何だよッ!この…イメージはッ!」
そのイメージでは、赤黒く、ぐちゃぐちゃになっている何かがそこに有った。それに、猫の鳴き声が聞こえた。
どうしてフードの人が言ったを忘れていたのだろう…あの人はこの事も教えていたはずなのに…
すぐさま本を閉じたが、悍ましい感覚だけがいまだに僕を襲っていた。
その悍ましさで吐き気を催し、トイレへと駆け込んだ。
「オェッ…、はぁ…はぁ…オオゥェッ…」
一通り吐いた後、嘔吐物と共に悍ましい感覚が消えた。
カウンター席に戻るとマスターが「大丈夫かい?」と心配してくれていた。
僕は「大丈夫です」とだけ答えた。
僕がいたところを見るとカウンターテーブルの上に野菜サンドとコーヒー、それと、僕のいつものに含まれていない筈のスープが置かれていた。
「マスター、このスープ…」
「なに、私からのサービスさ。君はいつも頑張っている事を私は知っているからね」
やっぱりマスターは優しい。この優しさに僕らはいつも助けられている。
「マスター、僕のいつものに…このスープ追加できます?」
マスターは笑顔で「構わんよ」と言ってくれた。
15分が経った頃、テーブルの上にあった料理を食べ、僕はカウンター席を立ち、レジへ。
「マスター、ご馳走様でした。今度コーヒーの淹れ方、教えてください」
「ええ、今度いらした時にでも教えてあげるよ。それと、さっきも言ったがスープは私からのサービスだからね、料金はいつも通りで」
「やっぱり、マスターには敵わないな」
料金を払い、店を出た。
時刻は12時21分、暁乃さんが向かった公園へ向かおうとした時だった。
「プルルル…プルルルルル」
電話が掛かってきた。
誰からだろうと思い、携帯を見ると父親からだった。
「よう!博市、元気か?」
「やあ父さん、元気だよ。それより一体どこにいるんだい?母さんの手がかりを見つけたとか書いてあったけど…」
「父さんは今、アメリカのアーカムってところにいるんだ」
「 アーカムって確か、今は誰もいないはずじゃ…」
確か、十数年前の謎の爆発事故が原因でゴーストタウンになっているんじゃなかったっけ?
「お前が考えてる事はだいたい察しがつく。ここは、今はゴーストタウンて事になっているが…まあお前も恐らく近いうちにここを訪れる事になる。その時に確かめてみろ」
訪れる?僕が?
「根拠はあるの?」
思わずそう聞いていた
「根拠か…根拠は、俺の探偵としてのカンってやつかな」
父は笑いながらそう答えた
「父さん、真面目に…」
「俺は、いつだって真面目だぜ…博市。おっと…博市、一旦通話切るわ」
「えっ、ちょ…」
ツーツーツー
通話は切れていた。
「何だよ、一体…今日は色んな事起こりすぎだよ」
そう言葉を漏らしながら、ため息が出ていた
12時37分、僕は現場の阿津島公園へ来ていた。
公園内はやや狭く、滑り台や鉄棒、ジャングルジムなどはあるものの、サッカーや野球などボールを使ったものは出来ないくらいの広さだ。
この時間帯は子供が多く、大人たちも子供の話などをしている様子が見て取れる。
実に微笑ましい光景だ。けれど僕は事件のことを考えていた。
「暁乃さんが消えたのが3日前の17時半…その時間だとしたら、この付近に目撃者が1人くらいはいると思うけど…」
そう言ってから3時間程経過した。が、収穫は何もなかった。
そんな時だった。
僕の前に泣きじゃくっている男の子がいた。男の子は「なんでだれも信じてくれないの?」と言っている。
僕は少し気になり、男の子に声をかけてみた。
「やあ、少年。泣いているが何があったんだい?お兄さんに少し話してくれるかな?」
そう声をかけると、男の子は「やだ!どうせ信じてくれないもん」と言い、僕から距離を取る。
それもそうだ。いきなり知らない人に声をかけられ、お話ししようと言っても相手に警戒心を持たすだけだ。
「そうだね、いきなり声をかけて悪かった。ごめんね?それと一応僕は探偵なんだ。今、僕は仕事で人探しをしてるんだよ。これが僕の名前」
そう言いながら男の子に名刺を見せる。
男の子が僕の名前を見た時、一瞬だけ口角が吊り上がったように見えた。
気のせいか?
唐突に目の前の子供に対し、わずかな恐怖心を抱きつつ僕は話を聞く
「お兄ちゃんの名前なんて言うの?」
ぐずった声で僕に尋ねる。
「ほら漢字の横に、小さくひらがながふってあるでしょ?篠宮博市それが僕の名前だよ」
それを聞いた男の子は完全に笑っていた。
僕は呆気に取られ見ている事しか出来なかった。
「掛かった!掛かった!」
男の子はそればかり言っていた。何も無い虚空を見つめながら…
この異常に周りは反応を示さなかった。いや、誰も居なかった。その時また、思い出した。探求者が言っていた事を…
「ああ…今日は本当に、厄日だな!」
目の前が真っ白になった。
篠宮博市の怪奇録 鷲羽海兎 @wasiba183
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