2人だけの砂浜

ババロアババリエ

第1話

朝だ。


うがいをして、緑茶を飲み、歯を磨く。朝食はとらない。


「おはよう、勇利」

女。昨日、俺といた女だ。

「おはよう。あ、もう帰ってね」


「なんでそんなこというの」


鬱陶しい。

「だから帰れよ。言ってんだろ。そもそも終電で帰ってもらうつもりだったんだ」


「ねえ、そんなんじゃ天涯孤独だよ?」

「誰とでもする奴にんなこと言われたかねえよ」


「あんたも同じでしょ」

こいつ、死ねばいい。なぜこうもベットから離れてみると、醜く見えるのだろうか。

「頼むから帰れ。一人になりたい。それと、俺はお前と同じじゃないよ」

「同じよ、見境ないもん」

うっざ。こいつ。


「いいから帰れって」

女は下着をはき、やっと荷物の整理をした。

俺はレポートを書く準備をした。


「ねえ、もう来年就活なんでしょ?」


俺は返さなかった。


「そんなんじゃ、どこからもとってもらえないよ?」


俺は返さなかった。


「私は長期インターン行って、そこで内々定貰ったんだよね。だからインターンくらい行ってみたら?一回絞られた方がいいよ」


「お前さあ、バイトの延長みてーな仕事やってる奴がくだらねーこと言うなよ。あと、正直出会い系で知り合った大学生と土曜にヤッてる時点で、お前の人生クソなんだから」


女は哀し気な溜め息を吐いて帰った。




昼だ。


彼女が家に来る。今日はお互い、バイトが休みだ。


「ゆうくん、久しぶり」


「おお、いつぶりだっけ。結構会ってないよね」

「うん、7 月 25 日に花火大会一緒に行ったでしょ?その時ぶり」

「そっか」


望海は美しい。品性がある。俺とは何もかも違う。


「望海の行ってるインターン、どう?やっぱきつい?」

「うーん、まあ結構レベル高い学生もいるからあー、うーん。でも、ためになるよ」

「そっか」


「ゆうくんはどっか行ってるんだっけ」


「うん、いや、今選考途中。○○商社の」


「ええーほんと?!すごーい!超大手じゃん。私そんなの無理だよ」

「いや、まだ選考だから。受かるかわかんないし」

「そっかー、でもすごいよー。私、勇気ないもん、そんな競争する勇気。挑戦するだけすごいって」


「ううん、でも、うん、まあ、ありがと。やっぱ優しいな」

「いやいや、全然」


目が合った。我慢できなくなって、望海の肩を抱いた。


やわらかい。熱い。


「もー、なに?」

「いや、なんでもないけど。ただこうしたかっただけ」

自分のしていることや言っていることの気持ち悪さに、鳥肌が立つ。


「あのさ、俺、」


「ん、何?」


「なんていうか」


口が乾く。


「いやまあ、やっぱいいかな」


俺は肩から離れた。

望海が悲しそうにしている。


「ごめんね、ほんとに」


「え?」


「ううん、分かってるよ、私」

「は?何が?」


「したいんでしょ?」


「え…」


「でもこの前、拒んじゃったもんね。言い辛いよね」

「ああ、いや、気にしないでよ、ほんと」

「ダメだよ。ほんとは向き合わなきゃいけないって」


「…そっか」


「でも、ごめんね。…もう少し待って?」


「…うん」


「優しい。ありがと」


俺らはいつまでも核心から離れる。


「ゆっくり進めよう」

と、そう言っておく。


「うん」


「てかさ、」

「うん」


「檜佐木先輩、まだ望海に気があるん?」


「あーーー、うん。そうだと思う」


「そっか」


ざまあみろ、ドブ男。お前は新入生のブスでも喰ってろ。

「あの人、やばいね。俺が彼氏って知ってんでしょ?」

「そー。てか、知ってからグイグイ来た」

「まじか。何かそれ悔しいな。俺になら勝てるって思ってんのかな?」

「かもねー。ゆうくんは、優しい感じだし」


「優しい感じ、か。まあ、そっか」

「うん。でも私、ガツガツしてんの無理だから、あの人ダメだよ」

「お、良かったー。なんかうれしい」

「ふふ」


望海と俺はその後、映画を観た。俺の部屋のテレビは大きく、迫力があった。ファンタジー映画だった。


「じゃあね、ゆうくん。また今度」

「おお、また」

望海は 17 時前に帰った。




夜だ。


今日は家から出る気はない。一歩もだ。冷凍食品をレンジに突っ込み、スマホを弄った。


18:36 菅谷勇利:

今日来れる?


18:37 赤羽菜月:

え、家?


18:37 菅谷勇利:

そう。望海帰ったから、暇。


18:45 赤羽菜月:

別にいいけど。今日生理だよ?


18:45 菅谷勇利:

いや、しねえよ。ただ話したいだけ。


18:57 赤羽菜月:

まあ、いいけど。ほんとに無理だよ?


18:59 菅谷勇利:

だからしないって。ただ相談したいこととかあるんだよ。女心とか、俺わかんないから。


19:00 赤羽菜月:

草 

その望海ちゃん?のことね。

おっけ。面白そうだからいいよ。玄関開けといてね。



「よっ」


菜月は化粧もまともにせず、ガサツな挨拶と共に現れた。19 時 10 分だった。

「おお」

「なに、あんたなんか作ってんの?」

靴を揃えて脱ぎもしねえ。入ってくるなり、キッチンを覗く。最悪だ。


「まあ、ナポリタンだけど」

「え、冷凍じゃん」

「いいだろ別に」

「まあいいけどさ」


菜月は俺が麦茶を注いでいる時には、もうすでにナポリタンにしゃぶりついていた。

「割と美味いね」


「あ?冷凍なんて美味いわけねーだろ。てか、お前、あれ」

「ん?」

「インターンとか、行ってる?」

「え、私?行くわけないじゃん。だるすぎ」


菜月はスパゲティでむせていた。麦茶を渡してやった。

「だよな。就活自体すんの?」

「んー、まあそりゃねー。さすがに親に迷惑かけたくないし」

「はー。そういうもんか」


「菅谷はしないの?」

「俺は、まあ、するよ、そのうち」

「ふーん。そうなんだ」


「あ、てかさあ、あんた昨日ヤッてたっしょ」

「あ?」

「いや、カーテンくらい閉めたほうがいいよ、マジで」

「知るかよ」

「ほんと丸見えだから。電気消したって少しは影見えんだからね」

「てかなんで見てんだよ。ほっとけ」

「私の部屋からは嫌でも見えんの。街灯もあるし、すぐ隣のアパートなんだから。時々声も聞こえてくるよ」

「声は別に俺んとことは限んねえだろ」

「いや、どーだろうね。あんたヤリまくってるから」


冷凍スパゲティは少し固い。不愉快だ。これを美味いとはお世辞にも言えない。


「そういえば旅行研究会、あんたもう行ってないんだっけ」

「おお」

「でも彼女はそこで作ったんだ」

スパゲティの薄赤を唇の周りに付着させたまま、菜月はニヤっと笑った。きたねえ。

「まあな」

「のぞみちゃん、だっけ」

「おお」


「どこが好きなの?」

「まあいろいろと」

「その返答はキモイなー」

「うるせえな」


「大切にしてあげなきゃダメだよ、今からでも」


俺はスパゲティを頬張った。

「で、どんな相談なの?女心とか、わかんないんでしょ?」

「あー、そうか。まあ、うーん」

俺は少し頭を掻きつつ、菜月の顔色を窺った。

「え、なに?」


「実は嘘でさ。お前に来て欲しかっただけ」


「え?」


「まあ厳密には嘘じゃないんだけど。女心とか実際分からんし」


「いや、ちょっと待って。今日しないって言ったじゃん」


「そうだけどさ。でも実際こう二人で会うと、我慢できないっていうか」


俺は席を立った。菜月の目が不自然に大きく見開かれる。


「ちょ、ほんとにキモい」

「…」

「この感じ、二回目だよ?」


「は…なにが?」


「私がしたくないって言ってんのに、誘ってくるの。二回目。・・・無理だって、さすがに」


「いや、そうか。あーーー、じゃあまたこn」

「いやもうそうじゃなくて! 付き合ってないんだよ、もう。分かる?」


「そうだけど」

「いいかげん大人になってよ」


どいつもこいつも同じことを言いやがって。俺を見下すなよ、何度も何度も。


「じゃあ帰れば?」

「え?」

「だからもう帰れって。そんな感じじゃ俺も気分悪いし」

菜月は溜め息を吐いた。


「うん、帰るよ。そりゃ帰るけど…でもどうせまた、セックスしたくて私を呼ぶだろうけどさ、来週とか、いつかはわかんないけど。でも私、もう二度と応じないからね。それだけは覚えといてね、頼むから」


菜月はドアを思い切り閉めた。今日はもう、自分で抜く気分にすらならない。



朝だ。


目覚ましがうるさい。寝起きの目ヤニが視界を塞ぐ。

今日はゼミのレポートに取り掛かる。提出期限は 1 週間後。残しておくのは気が休まらない。


「環境プラグマティズムの問題点と現代社会の多様性」


自分で考えたレポートのテーマに興味がないわけじゃない。ただここ最近、書く気が起きない。


ここ二日、書こうと思いつつ、まだ 1000 字も書けていない。集中するに至らない。

そうしてこうも苛立ち、諸々の不満を抑えられない。自分に腹が立つ。



昼だ。


バイトの時間。紙とインク、香水の匂い。


「菅谷君、清水さんの授業進度どうなってる?」

「えと、国語はマスターの 167 ページで、英語は 129 ですかね」

「いや、遅いよ。もっとペース上げて」

「はい」

「雑談してんの聞こえてるから。もうやめてね、そういうの」

「はい」

「うん、じゃあ、次のコマまで少し空いてるんだっけ」

「はい」

「電話対応、よろしくね。あ、あと、採点もしといて」

「はい」


教え方が下手なくせに、態度だけはでかいんだな、いつも。


生徒を受からせる気もねえ奴が、教室長とかやってんじゃねえよ。


ノルマに縛られてるビジネスなんて、ほんとにキモイ。


生徒一人ひとり、記憶力や頭の回転、性格、知識の蓄積量が違う。


それぞれに合わせていかないと、成績は上がらない。


聴く・読む・書く、どれがその生徒にとって最適かつ楽しめるか、考えていかなければ時間の無駄。


でもそんなことしてる奴はここにいない。


だから所詮、ここはスピード重視で量重視のくだらない商売だ。


もうそろそろ辞め時かな。



夜だ。


20 時 30 分。ファミレス。客のざわめきと料理の塩気がちょうど良い。1 日にそう多

くはない、居心地の良い時間帯だ。


「菅谷って彼女とかいんの?」

塾講としても年齢としても先輩の芹沢さんが言った。この人は、運ばれてきたばかりの湯気が立ち上るドリアを、ぐちゃぐちゃにかき混ぜる。ドリアはマグマみたいだ。


「いますよ。一応」

「おおー、そっか。まあ確かに、意外とモテそうだよなあ。鼻高いし」

「そうですかね。自分ではそう思ったことないですけど」


芹沢さんはネトッとした粘度の高いドリアを大口で喰らった。俺はナポリタンを巻いた。


「てか、どこで知り合ったの?」

「僕がちょっと入ってた旅行サークルの、同期です。雰囲気合わなくて僕は辞めちゃったんですけど」


「へえー。青春だなあ」

「そうすかね。普通ですよ」

「普通がいいんだよ。普通が青春」

「そういうもんですか」

「そういうもんだよ。俺もう、普通に戻れないもん」


「あー、確かに、芹沢さん、少し変わってますよね。いい意味で」

「うーん、そうじゃなくて。年齢上がってからはさあ、普通ってのがけっこう努力しなきゃ手に入らないっていうか、手放す機会が増えるってか、なんてーのかな」


「はあ」よくわからん。芹沢さんはドリンクバーで注いできた薄いコーラを飲んだ。


「まあ人それぞれだと思うけどね」

「そうですか」

「おお」


「そういや芹沢さん、あの、話変わるんですけど、今の室長って…」

「あー、やめてやめて」

「え」


「塾の話はやめてくれ、まじで。せっかく食ってんだから」

そうか。

この人の頭にはきっと、非現実と現実、休暇と仕事、などというスイッチがきっちりとあって、それを少しでも侵害されるのが不快なんだ。気持ちは分からなくもない。


「すいません。じゃあこの話はまた今度」

「おお。そうしてくれい」

「はい」


「で、彼女のことなんだけどさ、もうヤッたの?」


「え?」


「だから、セックスだよ」


芹沢さんは小声で言った。向かいの席は家族連れだ。


「いや、その、ねえ」

こういう話題を男同士でするのは嫌いだ。


「なんだよ。大事なことだろ?結局しなきゃ始まらないんだから」


「でも別に、そういうことするのだけが恋愛じゃないですよね」


「まあそう言う奴もいるけどな。…というかその言い方、お前、してないだろ!」

ビンゴ、と言いたげな笑みを浮かべていて、少しうざい。


「まあしてはいないですけど」

「付き合ってどのくらい?」

間髪入れず、尋問みてえだ。ゴシップ好きなのか、恋愛指南好きか。

どちらにせよ、少し失望だ。この人の普段する大学院や語学の話は面白かったのに。


「三か月です」

「え、それで一回もなし?」

「はい」

「キスとかは?」


「いや、あまり。できてはいないです」


「まじか。おまえそれやばいよ」

「え、そうすかね」


ナポリタンを巻く手が止まる。芹沢の言葉には冗談のない蔑みが乗る。うぜえ。


「おお。え、何歳?その子」

「21です。同期って言っても、彼女は浪人してるので」

「えー。で、お前 20 っしょ?」

「はい」

「いやあ、ちょっとなあ、ごめん」

「はい?」ごめん、といった意味が分からない。


「とても成人してる恋人同士の関係とは思えないわ」


「は?」


「普通抱かれたいもん。好きな男には」


こいつ…


「あのさ、なんか事情があんのかもしれないけど、プラトニックな関係が美しいと思ってるってのは、本人たちだけでさ、それってただの友達だからね。…恋愛関係とは言わない。もし恋愛って言うならそれは、自然の道理から外れてるよ。ただのさ、生産性のない、ただの演劇だから」

決め台詞のように、格好つけた表情でこいつは言い放った。


「そうですかね?」


「そうだよ。てかなに、キレてんの?顔こわばってるよ」


「そりゃ気分は悪いですよ。彼女や自分を否定された気がするので」


「んーまあ、否定ってか、そうだな、別れて次行きゃいいだけの話だよ。その女と関わると、多分な、俺は詳しくは知らないけど、ろくなことないよ。22 にもなって純愛とか、考えてるのはなあ、うーん。どうせ一緒にいると落ち着くとか、ポカポカした気持ちになるとか、そんなこと考えてんだろうけど、その人。高校までに恋愛経験積まな過ぎて、時間が止まってんだよ」


いい加減にしてくれ。押し付けないでくれ。


「お前は、やっぱ二十歳の男だし、したい気持ちはあんだろ?でもそれ我慢して付き合ってんだろ?分かるよ、俺もそういう時あったし。でもそれ、性の不一致って言うんだよなあ。だから、価値観が合ってねえの。お前が無理やり彼女に合わせてるだけで、ただの演劇なんだよ。別れた方がお互いのためだ」


もう聞いていられない。


「芹沢さんは、なんていうか、ヤリチンがえらそうに語ってんじゃねえって、そう思いますよ、俺、正直」


芹沢は面食らいつつも、優位に立って余裕の笑みを浮かべる。なんもわかってねえ、ただ生きてる年数が多いだけの、空洞のくせに。なぜそうも上にいたがるんだ。


「まあまあ、な。気持ちはわかるけど、そういう僕たちだけの世界、みたいな、特別に浸れる感覚からは、卒業しな?」


「あ?」


「お前の学生時代ってか、いわゆる青春?、そんなんだから少し寂しいよ。もっと遊んで、楽に付き合える人探せって。たぶん今のその子はお前に合ってないよ。なんかもう、断言できる」


「ふざけんなよ」



朝だ。


塾からの電話で起こされた。

一言、「とりあえずクビだから」そう室長は言い放った。


昨日、あれから俺はとっさに、あいつの食いかけのドリアを掴んで、あいつの顔に押し付けた。

なんの怪我もなかった。警察沙汰にもならなかった。それでも、俺はクビだ。

イラつくことを言ったあいつが悪い。俺は悪くない。


でもあいつは室長に気に入られていた。


どうしてこうも、俺は生きづらいんだ。



昼だ。


出会い系サイト、マッチングアプリをいくつか開いた。


一時間ほど物色し、めぼしい奴とは長く慎重に会話をしてみた。


今日これから暇で、もし良ければ会いたい、と俺に言う女が一人いた。


そんなことを女から言われるのは滅多にないため、俺は会うことにした。



夜だ。


カラオケに来ている。個人経営店のナポリタンを二人で食した後だ。


「ねえ、早紀ちゃんと一緒にいると、すごい楽しいよ。歌の趣味も合うし」

「えー、嬉しい。私も楽しいよ。勇利くんの声、けっこう好きだし。イケボだよね」

「そうかな。でも、俺も早紀ちゃんの声、好きだよ。この後も、もっと聞きたいな」

「えー、どういうこと?もっと歌ってほしいってこと?」

「違うよ」



朝だ。


ホテルの朝は暗い。

窓がなく、爽やかな匂いもない。性の匂い。

夜が続いているみたいだ。


「うーん、おはよー」

「おお」

「ぎゅーしてー」


「ごめん、ちょっと待って」

「えー、なんでー」


「あの、俺、先帰るわ」

「え?」

「ごめん。大学で集まりあって。どうしてもいかないと」


「そっか。え、でも、こんな早く?まだ朝 7 時だよ?さすがにないでしょー!」

「遠いんだよ、こっから。あと、発表あるから。練習しないと」


「へー。じゃあ練習付き合ってあげてもいいよ?私、職場でプレゼンよくやるから」


「いいよ。さすがにそれは迷惑っしょ」

「ううん、全然。もっと一緒にいたいもん」

体が怠い。


「なんていうか、俺、彼女いるからさ」


「え、なに、いきなり」


「早紀さんとはちょっと遊びたかっただけだから。今日も一緒にいたいとかは、違うかな」


「なにそれ。私、告ってもいないのに、振られたみたいじゃん。てか私も別にあんたと付き合いたいとか思ってないよ?」


「そっか。まあ、とりあえずごめん」


「…そうだね、最低だったね今のは。ヤリたいだけとか、彼女いるとか、本当だったとしても、今更、私の前で言っちゃダメだと思うよ」

「ごめん」


「最後まで気遣いできないんだったら、風俗行ったらいいと思う。せっかく楽しかったのに、台無しになっちゃった」



昼だ。


映画を観ている。


一人。小劇場で。インディーズ映画、フランスの。


二人は愛を誓い合っている。


海辺、波打ち際。砂浜に二人。走り回る。水平線はぼやけていく。

背の高い筋肉質の男が、細身の女を抱き寄せる。ズームアウト。

太陽が海へ落ちていく。


エンディングには、プラトニックラブにふさわしい、浮遊感のある音楽が流れた。

ふかいねむりへ誘うリズムで。


俺は憧れてるんだ。頭のどこかで。

なんで男なんだろう。なんて男なんだろう。

どうして俺は自分の男の部分を、こうも証明したがるのだろう。

何も強くないのに。



夜だ。


溜まっていた家事を終わらせた。

服からは生乾きの匂いがした。食器にはシミが目立ち始めていた。


特段、予定のないときは、物事を思い起こして、考えてしまう。今日も例のごとく。


俺は望海に好意を持っている。それは間違いない。

けど、芹沢の言葉が耳の奥で悪玉菌のように残ってる。


プラトニックな関係はただの友達、何も始まってない関係、性の不一致、ただの演劇


なんでそんな一面的な考えを押し付けられなきゃならない。

神でもない人間が、他人の生き方や関係を勝手に決めるなよ。


「お前は、やっぱ二十歳の男だし、したい気持ちはあんだろ?でもそれ我慢して付き合ってんだろ?」


芹沢の声と顔が鮮明に再生される。胸糞わるい。


俺は自分のついた嘘について考えた。

振り返りきれない程多く、またそのすべてが自然で、違和感がなかった。

それでもどこか恥ずかしかった。


じゃあ俺は具体的に、何を恥じているんだ。


まず、望海が彼女である、それは誇れることだ。

誰に誇るでもなく、自分に誇れることだ。


望海は内外ともに過剰な汚れも卑屈もない。適度に白だ。いや、少し白すぎるくらいの。


そうだ。

俺から見て望海以外のほぼすべての人間関係を、

俺は恥じているのか。


さらに、俺自身の性格も行動も嘘も

恥ずかしくてたまらないのか。


さらけ出せるはずもない。


いや、ヤッた女にはさらけ出せるのか。

恥の一部に何を言っても、恥を感じることはない。


相手のことを俺は、人間だなんて思ってないんだから。

俺はそんな俺が恥ずかしい。

あらためてそう思う。


これまで考えることを拒否していた。


怖い。


自分の欲求と傲慢の汚さに正面から向き合うのは


怖い。



朝だ。


緑茶を飲んだ。


新しいバイトでも探すか。


でも、いや、少しだけ休みたい。

なにか、考える期間を得たい。

となると、俺の直近の課題はゼミのレポート提出と、あとは、なんだ。

特になくなるのか。


夏休みだし、ほぼほぼプー太郎状態だ。

まあいい。貯金も仕送りもいくらかある。


よく考えたら、見知らぬ女とのデート代、ホテル代、相当かかるな。

たかが一晩、自分の男としての魅力を証明して、本能を一時的に解き放つために、どれだけ金を使っているんだ。

ばかげてる。


俺には彼女がいるんだ。


ばかげてる!



昼だ。


俺は図書館に行った。


レポートに必要な本を読むためだ。

また、なにか現実の助けになる本が読みたい気分でもある。

恋愛指南書ではなく、もっと本質的な。

哲学?特に倫理学?人間存在論?いや、文学?

指針が欲しい。もちろん、依存するわけじゃない。

先人の知恵ってやつだ。



結局、レポートは終わらなかった。

それでも昨日よりは少し進んだ。


レポートの息抜きに読んでいた本で、気に入ったものがあった。

それが、バタイユという人物についての本だ。

哲学に関する本だった。


バタイユは快楽を研究した人だ。彼自身も性欲が強すぎる、性に悩む困った人物だったらしい。


バタイユ曰く、人間は動物と違って、生殖活動と関係なしに性行為をする。

つまり、過剰。

本来しなくてもいい、現代で言えば、避妊具を伴った性行為、という過剰。

そういった過剰なことを消費していくことで人は快楽を得るのだという。


また俺らはパンツを穿いて生活しているが、それは脱いだ時に快感を得るため、わざと穿いているんだと。


俺らは、そう、無駄なことをせっせと何度も繰り返し繰り返し、疲れ果てるまで繰り返して、そうして死に近づいていくんだ。


むしろ性行為は死を感じる行為だという。死の予行演習とでも言うのかもしれない。


人は性行為に快感を覚え、繰り返そうとする。過剰なことを消費していく。


そう考えると、人の性欲なんてくだらないものだ。

本来しなくてもいい、子供を望まないセックス。


無駄だ。


タブーを犯そうとする、滑稽な俺らだ。とんだお遊びだ。パンツを履いた猿だ。


本を読んで、少し救われた。

人生が少し、前を向いた。


ただれた、くだらない、狭い視界の生活を自覚した。



夜だ。


気分が晴れていた。


ひさびさに、空気の軽い夜だ。


そんな中、SNS に一通のメッセージが来た。


18:26 さりな:

久しぶりー。


さりな?誰だ。


18:26 菅谷勇利:

ごめん、誰だったっけ。ちょっと分からない…


18:35 さりな:

やっぱり、覚えてないかあ~。ボランティアサークル、カラフルにいた横内紗理奈です。


思い出した。一年前にやめたサークルの先輩だ。あのサークルはつまらなかったな。環境問題に俺は興味があったが、メンバーに環境問題を本気で学んでいる奴はいなかった。


それと確か、さりな、という人と、四回か五回、してしまった。


元々ガードの固そうな、真面目系だったけど、耳元で色んな青臭いセリフを言ったら、簡単にホテルまでついてきてしまうような、可哀そうな人だ。


「君が必要、君だけが必要、一目惚れした、もっと一緒にいたい、好き」


19の自分が言っていた、そんな3流以下のナンパ師のようなセリフでも、囁いたら効いてしまう人だ。


今思えば、なんてみっともない。

そう思える自分がいる。


18:36 菅谷勇利:

思い出したよ。さりなさん。懐かしいね。


18:36 さりな:

うん。そっか。思い出してくれてよかった。

でさ、言いにくいんだけど、私本当は、けっこう待ってたの。連絡くるの。


18:36 菅谷勇利:

え?俺から?なんで?


18:50 さりな:

4 回合ってからパタンと連絡来なくなっちゃったんだもん。寂しかったんだよ。


そういえば、この人は自分から連絡することはなかった。

常に俺の言葉を待っていて、言えばいつでも来た。

でも俺は、もっと顔も身体もいいセフレを見つけて、連絡するのをやめたんだ。


18:52 菅谷勇利:

ごめん。いろいろ、バイトが忙しくて。


18:53 さりな:

嘘はいいよ。他の子としてたんでしょ?


18:55 菅谷勇利:

彼女も出来たりしたからさ。


18:56 さりな:

いいよ、そういうの。あのね、今、私、親が亡くなったり大学辞めなきゃなんなくなったりして、いろいろ寂しくなちゃってね、勇利くんも連絡してくれないし、それで正直、出会い系見てたの。そしたら、勇利君の顔の画像があるアカウントがあって、びっくりしちゃったんだよ。プロフィールにあった大学名や身長からも、勇利君そのものとしか思えなかったし。


18:59 菅谷勇利:

そっか。ごめんね。


19:03 さりな:

いや、わたしなんていいんだよ。手遅れ。でも、もういろんな子を傷つけるのはやめたら?みんなが割り切れてるわけじゃないんだよ?


この女のアカウントをブロックした。


しばらくの間、心臓の音が重かった。


メッセージブロックを行ってからしばらくして、頭にふと映像がよぎった。

あの子の股から血が出ていて、「生理だから、ごめんね」と言い張ってた。

あの子はシーツを思い切り掴んで、泣いていた。

血の量がとても多かった。


当時の俺は何も気付いていなかった。その映像が思い浮かんだ。



朝だ。


俺は走った。

本能に任せて、遠回しにしていたことが

自分に降りかかってきそうで

怖くて走った。


逃げるが勝ちだ。


いや、ちがう。

土俵に上がらなければいい。



昼だ。


走ったことにより、決意した。

思考がクリアになった。

単純に考えよう。


過去は消せないけど。


出会い系サイト、3 つ。

マッチングアプリ、2 つ。

アンインストール。


SNS で繋がっていた、関係を持った人。


全員ブロック。


望海、もうしないよ。


してたことは、謝りたいけど

言えない。


でも、自分の気持ちに気付いたんだ。

望海ともしないよ。


もうしばらくは休憩するよ。



夜だ。


ノートパソコンを開き、ネットサーフィン。


関東近辺の海で、人のいない場所を探す。

二人で静かに歩ける浜は、どこか近くにないだろうか。

検索していくと、幾多もの海、パラソル、太陽、海の家、人、人、人。


人のいない海はないか。

僕らの世界に誰も入り込まない海は。


検索:人のいない海 関東


あ、あった。わりと簡単に見つかった。


少し遠いけど、砂浜じゃないけど、

砂利や泥の多い海辺だ。それを見つけた。ここらから車で三時間。


海の手前にはテトラポットがいくつも見える。

誰も行きたがらないわけだ。

工事現場の臭いさえしそうで。


それにその海辺は地名も聞いたことの無い、廃れた町だ。

でもそれでいい。

日常を彩るデートがしたいわけじゃない。



朝だ。


望海は困惑しつつも、車に乗ってきた。


「ねえ、ほんとどこ行くの?」

「海だよ」

「でも私、水着持ってきてないよ?大丈夫?」

「いらないよ」


レンタカーは走りづらく、高速での合流の際に 120 キロが出た。

思いの外アクセルが軽い。

僕の気持ちも軽い。軽やかだ。


「なんか、いつもよりニコニコしてない?」

「そうか?」

「うん。すごい楽しそう」


「望海はたのしくない?」


「いや?けっこう楽しいよ。ただ急すぎて、頭がついていけないだけ」

「そっか。ごめんな、急に家の前まで行っちゃって」


「それねー、ほんとねー。びっくりした。でも」

「でも?」

「ゆうくんは普段サプライズとかあんまりしてくれないから、嬉しいよ」

「そっか」


「それに、今日の予定はちょうど行きたくなかったやつだから。ちょうどいい」

「あー、バイトの友達とディズニーだっけ」

「うん。ちょっと趣味合わないからさ、その人たちと。かといってうまく断れないしー。だから、行かない口実ができて良かったよー。まあドタキャンになっちゃうんだけど」


望海の髪はエアコンの風でほんの少し揺れる。



昼だ。


高速を降りて、しばらく道なり。

料金所からもうすでに海が見えた。


「きれーい」

「うん、そうだな」

海は透き通ってるとはお世辞にも言えなかったけれど、蒼であることに変わりはなかった。


「べつに、この辺の砂浜でもよくない?こっから結構かかるんでしょ、行くとこ」

「うーん。いや、この辺は、ほら、混んでるから」

「混んでるのほんと嫌いだよねー、ゆうくん」


「まあな。やっぱ、二人っきりになりたいときもあるじゃん」

「そうかあー」


望海は空を見つめながら、うーーんと少し考え込んだ。

「でも、まだやっぱり私は、心の、準備が、、、」


「ああ、今日はそういうんじゃないから。大丈夫。てか、野外でする勇気ないよ」

つい笑ってしまった。俺はいま、性欲一切ないんだな。


ただ、今のことしか考えてない。この瞬間の楽しさ。

どの順序で落とすか、なんて。汚い。


30 分ほど海に近い大通りを走ると、道は海から遠ざかった。

時々漁船や竹林が見えた。道は細くなり、チェーン店連なる街は消え、集落が増えた。

おばあちゃんちの匂いが窓越しに伝わる。線香の匂いが風景から香る。


小さなトンネル、車に当たる雑草、砂利道。

とんだクソ田舎だ。それがまたひっそりとして、いいんだけどな。


「着いたよ」

「え、ここ?」

「うん」


俺も驚いた。ネットに載ってるよりずっと殺風景で、ずっと狭い。泥と砂利でできた、湿り気のありそうな足場は、30m 程度しか横幅がない。

縦幅も短く、波は浜を何度も呑みこんでいる。


俺たちは奇跡的に何もない、薄茶色の空地へ車を停めて、すぐそばにある浜へ歩いた。


「お腹すいた」

「え?」

「お腹すいた!もう一時なのに朝から何にも食べてない」

「そうか。そういえばそうだな」

近くにあった酒屋で適当な菓子パンを買って、望海に渡した。自分にも一つ買った。


「えー、こんなの…」

「しかたないだろ、飲食店なんてないだろうし」

「はいはい」


望海といると、童心に帰る。


ブルッ


ポケットのスマホが揺れた。SNS のメッセージ通知だ。開いてみる。


13:16 赤羽菜月:

ずっと言おうと思ってたんだけど、あんたは人を好きになったり愛したりできない人間だよ。彼女さんがかわいそうだから、早く別れてあげな。そもそもほんとに好きならセフレなんて作る気も起きないはずだよ。彼女に悪くて。


地獄のようなタイミングだ。

俺の心臓は一瞬飛び上がったが、そこまで動揺はしなかった。


そもそも俺は、望海を愛してないんじゃないか。そんなことを昨日考えていた。


ただ一緒にいたいだけだということ。


それが許されるかどうかなんて知らない。


望海の気持ちもどうでもいい。

一緒にいたいだけだ。


そのことに愛だの恋だのと名前を付けたくない。

最低だとはわかってる。


俺らは甘すぎるパンをかじりながら、浜に入った。


「うわ、ぬめっとしてるー。気持ちわるいっ」

望海がサンダルを脱いで裸足になると、すぐに足が地に埋まった。

安定感のない地面で、転びそうになる。


俺もスニーカーを脱いだ。

「意外と暑くないな」

「うん。あんまりねー。てか、足冷たい」

「そうだな」


映画のワンシーンとは少し違う。

曇り空が多く、太陽は隠れていて、匂いも、海藻とごみが混じった現実的なもの。


「手、繋いでもいい?」と俺は聞いた。

「いいよ」

俺らは手を絡めずに、拍手をするように弱くつないだ。あたたかかった。


「あ、カニ」

「ほんとだ」

「こっち向かってくるよ」


俺は小さくて濁った色のカニを持ち上げた。

「濁りたくて濁ってるわけじゃないのになあ」

自分で言った独り言に、数秒後、吹き出した。

俺とは違って、カニの濁りは生まれつきだ。


「なにそれ。イキってるよー。引くわー」

望海が顔をおどけたようにゆがめてる。


俺だって、知り合いがこんな酔った独り言をしたら、そんな反応をする。


でも人間だってある程度、生まれつき濁っているのかもしれないな。


「海ってさ、洗い流される感じ、しない?」

望海はテトラポットに当たる弱めのしぶきを見つめて言った。

俺は水平線を見た。


「まあ、確かにあるな」


「うん。人のいない海もいいね。初めて来たけど」

「うん」


波の音をいつも聞ける漁村の人々は

この美しい響きに飽きてるのだろうか。


だとしたらもったいない。


ブルッ


またか。


13:48 赤羽菜月:

何いっちょ前に既読無視してんだよ、カス。そういうとこ、ほんと嫌い。不戦勝と不戦敗しか選ぼうとしないとこ、皆に見透かされてるよ。もっと傷つけよ。言い返してみろよ。


俺は土俵に上がらない。

海を見ていたい。

二人で、ずっと。


13:50 赤羽菜月:

自分が何してるか分かってる?迷惑だしキモイし、責任感もないし、たいしてイケメンなわけでもないくせにモテ男気取りなのもきもいし、いいとこないからな??ほんと身の程知りな??


13:51 菅谷勇利:

ごめんな。じゃあな。


こいつもブロックだ。友達やご近所として扱ってたから、残しておいたけど。

もう無理だ。

俺の世界に入って来るな。


時々ふと、衝動的になる。

それは性的な面でもそうだけど、今はむしろその逆だ。

少年のような衝動性が俺の背中を押して、自己中にさせる。


「ちょっと泳ぐわ」

「え?」

「望海は、どうする?」


「いやー、さすがにやだかな。ほんとに泳ぐの?」

「うん。そういう気分なんだ。なんていうか、汚いものを全部洗いたい。そう、なんか、洗礼みたいに。よく分かんないけど」

「えー。海見たいから来たんじゃないの?水着もないでしょ」


「そうだけど、まあ、いいじゃん」

「ええ…」


「じゃ、ちょっとだけな。すぐ戻るから。なんなら、車戻ってる?」

「いや、いいよ。ここにいる。私は見てるだけで、洗われる気分になれるから」


「そっか。そうか。ありがと」


「うん」


俺はパンツ一丁になって、濁り気味の海に足からゆっくり浸かっていった。

そういえば望海の前で肌をここまで見せるのは初めてだ。


嫌がっていないだろうか。


でもそんなことより、海だ。

テトラポットに波が弱くぶつかり、50cm 未満のしぶきをあげる。


俺の身体はどんどん濁水に浸かっていき、足が地面に着かなくなってくる。

足を水面まで浮かし、クロール。


思いの外、進まない。


波が来ると、身体が持ち上がる。

不安が募る。たった数メートルしかまだ泳いでないのに。


それでも海は単純で、当たり前だけど、寄せては返すだけだ。

人間が持ってる差別も邪念もない。


ただ一定のリズムで、風や雨と繋がって。


どうしてこんな簡単なことを

俺らはできないんだろう。


原始人に生まれたかった。


クソくらえだ。恋愛も、駆け引きも、サークルも、出会い系も、俺に悪口言う奴も、俺も。


どいつもこいつも複雑にしすぎなんだよ。

ルールも価値観も“普通”も、なくなっちまえ。


その複雑さのせいで、俺は劣ってるだの汚れてるだの

自分でいちいち感じつつ、悪行も重ねなきゃならねえんだ。


海はこんなに単純なのに。

そう、単純で退屈だ。それでもいい。


しばらくは退屈で綺麗な日々を過ごしたい。

浮かんで、流されて、自然と一体になるような。


「おかえり」


俺はクロールをやめていた。仰向けのまま、浜まで簡単に流されて、しまいにはべったりと泥に寝そべった。


望海は俺を珍しそうに上から覗いた。望海の髪が揺れていて、その光景はなぜか懐かしかった。


ノスタルジックな気分に浸ったまま、しばらく黙っていた。



夜だ。


望海を家まで送ってから、レンタカーを店舗に返し、帰宅した。


ポストには「死ね」と大きく書かれた手紙が一通入っていた。

気にせず部屋に入ってふと窓を見ると、その窓にはトマトか何か赤いものが投げつけられた跡があり、それは窓枠の下の方にへばりついていた。


「好きなだけやれよ。気が済むまで」


俺はシャワーを浴びて、歯を磨いて、好きなバンドの曲をかけて、眠りに就いた。


性欲は一向に湧かなかった。



朝だ。


今日は珍しく、朝ごはんを作る気になった。


ウインナーとカット野菜を炒め、パンをオーブントースターへ。


清々しい朝だ。ずっといい。


これまでよりずっといい。


新しい趣味を探そうか。


一眼レフを買ってみようか。


そう思えるくらい、白。


今は白。

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2人だけの砂浜 ババロアババリエ @Bavaroisbavarier

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