最終話
家に帰ってから、俺は何をしただろう。風呂に入って、横になった。でも寝付けなかった。
でも気づいたら朝になっていた。
俺は起き上がって、大きく伸びをした。昨日、あんなに嫌なことがたくさんあったのに、なぜか気分は清々しい。
「行ってきまーす」
そう気持ちよく言って、家を出た。
いつもの駅のホーム。ぼんやりとくたびれたスーツを着たサラリーマン。三人グループの女子の談笑。その全てが当たり前で、このさきも当たり前の日常だと思っていた。
電車のアナウンスが鳴り響く。
俺は黄色い点字ブロックの内側に立つ。
目の前に電車が過ぎようとした瞬間——誰かに背中を強く押された。
「——えっ」
激しい衝撃とともに目の前が真っ暗になり、意識が消えた。
ーーーーー竜華視点ーーーーー
私は凛が亡くなったことを知ったとき、「ああ、またなんだ……」って思った。どんなに頑張って繰り返される悲劇を回避しようとしても、無駄なんだって……思った。
とぼとぼとまた歩く。
どうすればいいのかな。なんて答えが見つからないことを考えてしまう。
涙が溢れてくる。ぼろぼろと落ちる雫。
涙がしばらく止まらなかった。
私にとって凛はかけがえのないものだから。
でも……泣いていたって仕方がない。
涙を乱暴に拭って、立ち上がる。
「また時間を越えないとね」
私は走った。目指す先は学校の屋上の桜の木。そこは私の夢が叶う唯一の場所。
アスファルトを駆ける。
校舎の正門を通って、学校内に入る。
屋上にのぼって、すこし大きくなった桜の木を見る。
「さぁ……私を連れて行って!」
光が私を包む。
ここは……どこだろう。
ああ。そうか。私、また時を越えようとしたんだ。
今度こそは成功するといいな。
「また来たんだ」
野原に寝そべる私を眺め、嘲笑うかのように言った少女。
「ええ、私は何度でもくるわよ。凛のためだったら……」
「無駄なことを……‼︎」
そんな言葉を言われても歯を見せ笑う竜華。無駄なことだと分かっている。だってどんだけやったって成功しないんだもの。でもやらなくちゃいけないんだ。後悔をしないためにも。
「まぁ、いいや。どうせエンディングは一つなんだから。足掻いていればいいのよ」
「言われなくてもそうさせてもらうわよ」
そしてまた時はループしていく——
君のためなら何度だって時を戻そう 大西元希 @seisyun0615
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