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「雨だね」
「雨ですね」
「覚えてる?」
「何が」
「あなたが、死にかけてた日も。雨だった」
「ああ、結婚式前日」
「いや、そっちじゃなくて。当日のほう」
「覚えてない」
「ほんとに?」
「くすぐらないでください。覚えてないです」
「ほんとかなあ」
「気付いたら、病院のベッドで。あなたが泣いてて。あ、死んだんだなわたし、って」
「しんだとおもったのよほんとに。二度とかんべんしてほしいわ」
「ごめんなさい。でもしにたくなったらわたし
「やめてよ。死なないでよ。好きな人に死なれるのがいちばん私しんどいから」
「すきなひと?」
「やめてよ」
「わたし。あなたの好きな人の、代わりにはなれないです」
「知ってるわよ」
「やだ。なんかやだ」
「なにが?」
「死んだ前任者のかたに、なんか。もうしわけない。前任者のかたが死んだという心の隙間を利用してわたしが取り入ったみたいで。やだ」
「ちがうでしょ。彼とあなたは。性別も違うし」
「性別の話はしてない」
「でも違うじゃん」
「いやそんな。男とは付き合ったから次は女みたいな、そんな方式?」
「なんでもいいわ。とりあえず離れないで。私のそばにいて」
「わかりましたから。ほら。外は雨だから。ここにいますから。仕事させて」
「やだ」
「おい上司い。上司なんだから部下に仕事させろお」
雨の日を、楽しいと思ったことはない。
外に出れない。出たとしても、服がよごれる。動けない。靴が重くなる。ヒールも足元がおぼつかない。だから雨は、憂鬱な気分。
でも、彼女が隣にいるから。つらくはない。
レイニーアンニュイ 2021-7 (※lily注意) 春嵐 @aiot3110
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