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 雨が降ってきた。


「ちょうどいいや」


 雨の気分だった。

 好きなひとに、好きなひとがいる。

 でも、それは、かなしいことだった。

 ばかだった。わたしが。上司のことを好きになって。上司の隣にいたかった。そんな、ばかなことが。ありえない。


「あはは」


 笑えてくる。

 上司の、ことを。わたしは。何も知らなかった。上司の心の中にあるものを。分からずに。何が好きだ。何が隣にいたいだ。ありえない。そんなの。


「あはは。ばからしい」


 雨。

 心地よかった。泣いているのか、雨滴なのか、もうわからない。走る気力もない。


「いいんだ、これで。これでいい」


 わたしは、仕事を辞めて。彼女のいないところで。彼女がいないどこかで。

 生きていけるか。

 無理だろうなあ。

 彼女がいないことよりも、なによりも。彼女の心に寄り添えなかったことが、いちばんつらい。自分の心が。自分がこんなに、人でなしだったなんて。自分で自分を責めるのがよくないことだとは、わかってる。わかってるけど。

 死にたいと、思った。

 彼女のことではなく。自分が、なんとなく。死にたいと、思う。

 死んだら、彼女が好きだった誰かに、会えるだろうか。彼女との話が。できるかな。

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