06 ENDmarker.

「あっ。来た来た。ようこそ。私の結婚式に」


「は?」


「え?」


「なんですか。その格好。スニーカーにジーンズ?」


「うん」


「ドレス着ろよ。ドレス姿だけ見ようと思ってきたのに」


「着ないわよ。ドレス。さ、入って入って」


 誰もいない式場。


「結婚式は?」


「結婚式。うん。これが私の、結婚式よ。というか、結婚式だったはずの、何か」


「なにそれ」


「死んだのよ。恋人。5年前ぐらいに」


 しばらくの、無言。


「なにそれ」


「死んだのが受け入れられなくてね。嘘ついてたの。私。ここで結婚式する、なんて言ってさ。ごめんね。仕事とか。押しつけちゃって。明日からはちゃんと」


「辞めます」


「え?」


「辞めます。仕事。あなたの隣にも、いられない」


「何を」


「好きだったのに」


「私が?」


「死んだひとと比べられないじゃないですか。勝てない。普通の結婚式よりも、つらい。ごめんなさい。辞めます」


「あっ待って」


 式場の扉。閉まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る