第十話 破かれた台本

結局凱旋の馬にはシンフォニー、シン、シャリー、アキレスが一頭ずつ。我とペトラが一頭になった。手綱は愛馬で慣らしていたため簡単だったが、簡単に手綱を扱えても良い物かと悩んだが。


「すごい! ノーネお姉さん! きっと記憶が戻る前は馬に乗ってたんだね!」


というリリアからのフォローもあり、我らは無事に凱旋パレードを始められた。


「シンフォニー様ぁ!」

「シンフォニー様素敵ぃ!!」

「魔王を倒してくれてありがとう!!」


飛び散る花束に歓声。民衆は大通りの真ん中を空け所狭しと並び盛大に騒いでいる。これが魔王を討伐した勇者の凱旋か!


「まぁ、魔王は生きてるんですけどね」


我の身体に寄り掛かって手を振っていたペトラ――リリアが横から喜ぶ我に水を被せるような発言を繰り出した。


「い、良いのか? 普通に喋って」

「こうニコニコしながら手を振ってるだけなんですから口は自由ですよ」

「随分器用だな」

「魔王様もこれくらい出来るようになってください。ほら、そんな暗い顔しないで」

「暗くもなる。誰を討伐して起きてる凱旋パレードだと思っているんだ」


と言いつつもしっかりニコニコ、手を振れる我もなかなかに器用だ。


「出来てるじゃないですか。ある意味尊敬です」

「ここで怪しまれたら台本がおじゃんだからな」

「そうですね。そろそろ教えてください。どんな計画なんですか?」

「我が秀逸な口説き文句で実兄を篭絡し、この国を手中に収めるのだ。そうして勇者と仲間共は我の思うがままよ」


なんとも自分で言っていて素晴らしい計画だと自負できる。


「いだっ!?」


顎下にアッパーのような勢いでリリアの頭部が直撃した。


「そんなガバな計画で良いと本気で?」

「本気じゃなければ堂々とこんな事は言わん」

「あの、実兄と呼んでますがつまりまだその兄は王じゃないんですよね?」

「だがいつかはなるだろ?」

「今の王はまだ四十代です……」


四十代? 我から見れば赤子同然だが。一体それがどうしたと言うのか。


「しかも良い物を食べて良い治療を受けている御仁が五十代で死ぬとも思えませんが」

「……?」

「つまり、その作戦では実行するのに最低でも二十数年掛かります。その間ずっとその実兄とやらにこびへつらうんですか? 出来るんですか?」

「……む、無理だ」


まさかそんな落とし穴があったとは。もっとこうさっさと王位継承されるものかと思っていたのに。


「どうするんですか?」

「そ、そうだな……まぁ! まだ期日があるわけでもないし!」

「はぁ……」


台本が白紙になってしまった。一体どうしたら……。

絶望と徒労感に苛まれた我は王城に着くまでの間、ボケっとしていた。


「勇者御一行到着しました!」


大きな門が開き、現れたのは王城。うむ、魔王城の方がかっこよいな!


「ノーネさんはここで待ってて?」

「え?」

「流石にノーネさんを王の謁見にまで付き合わせるのは申し訳ないから……」

「そ、そうですか、分かりました」

「ノーネお姉さんの代わりに私が見てきてあげるー!!」

「あ、うん。ありがとうペトラちゃん」


ちっ。さすがに勇者パーティでは無い我はお呼びでは無いという事か。しかし憎き王の顔を一目でも見てみたいと思っていたのに残念だ。しかし我にはリリアが居る。大体の事情は後でリリアから聞けば問題は無い。


「ふう。遅いな……」


門の前で番犬のように黙って待っているがなかなか帰ってこない。まさか我を置いてパーティなどしているのではなかろうな!? 魔王の我を差し置いて!?


「て魔王の討伐達成パーティか……」

「お嬢さん、良ければ衛兵室の客間で休まれますか?」

「え? よろしいのですか?」


そろそろ足も限界なところに気さくそうな門番から提案があり、我は衛兵へのお客が来る時用の部屋で水を飲んで待って居る事にした。しかし貧相な客間だ。ソファがふかふか以外、物は乱雑に置かれている上、インテリアなどは皆無に近いではないか。


「まったく……どうして我がこんな所で……」

「同感ですね。どうしてここに居るのですか魔王様」

「……うわっ!? り、リリア?!」


対角にあったソファに座っていたリリアに度肝を抜かれそうになった。


「なぜここに? というかペトラの身体はどうした?」

「率直に言うと勇者様たちは牢獄に繋がれました」

「え? え!? なんで!?」

「魔王様、魔王様の雑な作りの台本ですがあれを実兄エターニが一人でやり遂げてしまったようです。実父である王を殺害し、この国の主導権を握っていました」


つまり、今、実兄がこの国の支配者で何かをとち狂ったのか、妹を牢につないだ……? 我抜きで? 我無しで?


「は、はぁあああ!? 我の誰も考えつかない台本をなぜ!?」

「いえ、その程度でしたら誰でも……」

「こうしてはおれん。地下牢はどこだ?」

「え? 助けに行くのですか?」

「当たり前だ! 我の勝手知らぬところで勝手に勇者が危機に陥るなど許せん!」

「ちょ、ちょっと待って……」


待っていろ。シンフォニー! 我が貴様を倒すまでくたばるなよ!!

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女勇者に負けた魔王は魔法少女に女魔王にされしまう!? ~勇者に惚れた我は勇者を追い出した王国の代わりに新たな国を建国し世界征服を目指す事にしたぞ~ 四悪 @souba25

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