第九話 王都に着いた

「あの、魔王様、目的忘れたんですか?」


馬車の前で腹痛がすると言いだしたペトラに甘えた様子で便所に連れ出されてしまった。そんな我はみんなの気配と視線が消えたあたりでとてつもなく怒り気味のリリアに苦言を呈されてしまう。


「な、何の話だ! 我はすでに台本を書き上げている! 王都に着けば作戦開始だ!」

「なら先ほどの人形がどうとかプレゼントがどうとかは演技なのですね?」

「え、あ……あ」


言葉に詰まってしまう。実はあの時、友人と呼ばれた事に心動かされ過ぎてほぼほぼ本心で喋ってしまっていた。

だが、それをリリアに言うのはなぜか怖い気がする。


「ああ! 演技だとも! 迫真過ぎて本当かと思ったか!」

「はい。自分を殺した勇者に肩入れするとんだマゾヒズムの持ち主かと」

「ちちちがうわい! だが、しかしあの女の精神攻撃には参るな!」

「精神攻撃?」


童の様な笑い、泣き、甘え、その言葉一つ一つが前向きで光り輝いている。そんなものに触れて心動かない者が居るのだろうか。いや居ない!


「つまり。勇者に接しているだけで心を油断してしまうだろう。ま、まぁ我程になれば勇者の威光などただの蝋燭の光と同レベル! 風前の灯火にしか見えんがな!」

「そうですか。なら安心ですね。もしも勇者に惚れてたり、友達になろうと本気で思っていたなら……」


一瞬、目の光が消え、我を吸いこむような瞳でこちら見るリリアに息を飲む。


「い、いたなら?」

「ふふふ」

「怖っ……」


平坦な笑いがこれほど怖いとは思わなかった。しかし、絆されてはいけないというのは十分理解出来る。くう、魔王である我が臣下に怯えてどうする。もっと厳かな態度で勇者に立ち向かわなければ。


「とにかく気を引き締めてください。あなたを蘇らせたのは勇者とイチャイチャさせるためではありませんからね」

「あ、ああ。分かっている! 女体化は余計だったがな!」

「ですが、今思えば懐に入りやすかったでしょう」


確かに最初ジンに気に入られたのは良かったし、勇者と同部屋になれたのも女性だからだ。あの勇者パーティには女性の身体は打って付けだった。


「む、むむ。リリアの先見の明は凄いな」

「はい、私の勝ち。戻りましょう」

「え……ええ……」


なんだか褒めたらめちゃくちゃ勝ち誇られてしまい、なんだかやるせない気持ちになったまる。


「馬車の準備終わったよ! 二人とも早く早く!」

「あ、は、はい!」

「はーい! 行こう! ノーネお姉さん!」

「う、うん」


馬車の荷台に荷物と共に乗った勇者パーティと我は馬車の旅に出た。道中、似たような村に何度も感謝されながら歓迎され、更には我まで勇者パーティと勘違いされ、男どもに言い寄られる始末だった。

シンフォニーとは毎夜のように語り合い、たまに混じりに来るシャリーの治療や噂話はためになる。ある洞窟にはドラゴンが居るだとか、山にある剣を抜くと世界を征服できるなど眉唾物から真実味のある話。とても楽しく聞ける。

ジンの口説きも今だに続いているが慣れればどうってことは無かった。


「さ、王都に着いたわよ」

「おお! ようやくか!」


馬車から見える大きな建物がそびえる王都の手前門に勇者パーティは興奮気味だ。しかし豪華な街なのが門越しでもよく分かる。

人通りが多い道に露店商、更には子どもや若者、老人が分け隔てなく仲良くしているではないか。


「ガフィーザさんが門番に話を通しに行くから待ってましょう」

「ああ。いやー、長かったな。久々の王都じゃねえか」

「久々とは言うが。離れて一ヶ月程度だ」


一ヶ月で落ちた我が城……。


「アキレスは一ヶ月が二日にでも感じてるのか?」

「俺はあの教会に拾われる前は宿無し犬だったからな」

「そんなもん12歳くらいの話じゃねえか」

「懐かしいわね。あの頃はシンフォニー、アキレス、ペトラはほんと小っちゃくて可愛かったわ」


人間の子どもというのを見た事はあるが、過程でどうように成長し変化するかは見た事が無い。魔族と同じとは聞いたことがあるが、興味があるな。


「どのような子ども――」


質問をしようとした瞬間、荷馬車のドアが叩かれた。


「ごめんなさい。ノーネさん、質問は後で聞くよ。どうぞ」

「失礼します。シンフォニー様とその御一行様。準備が凱旋パーティの出来ましたので是非、こちらで用意した馬に乗り、城下から城まで向かってください」


凱旋パレード。我も魔王になった日に愛馬のダークエラーに乗り、数千の魔族と盛り上がったものだ。


「凱旋パレード! すごーい! 私先頭が良いな!」

「じゃあペトラちゃんはまだ小さいから私と一緒に乗ろうね」

「えー! でもそしたらノーネお姉ちゃんはどうするの?」

「へ? あ、馬は何頭用意されたんですか?」


シャリーの質問に衛兵は人数が増えている事に驚いたのか、慌てた様子でこちらから目を離す。

流石に魔王討伐達成凱旋パレードに魔王が連ねるのは甚だ矛盾だらけな気がするので断ろうかと思ったがペトラことリリアの目が怖いので黙っている事にした。

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