第八話 人間の友達だ

朝、シンフォニーと共に宿屋を出ると勇者パーティの荷馬車に積まれていく最中だった。荷馬車に荷物を運んでいるのは運転手のガフィーザさんとジンだ。ガフィーザは無口で常ににこやかな表情をしている初老の男性で荷物を運んでいてもにこやかにしているのは最早意地のように感じる。




「おはようございます! ノーネさん! シンフォニーもおはよう」


「お、おはようございます」




朝から暑苦しいジンの挨拶に頭がクラクラする。我は静かなのを好むのだがジンに言っても無駄だろう。




「ジンさん、先に荷造りしてくれてありがとね」


「ふふん。気にするなよ。早く王都に帰って祝勝会がしたいからな」


「ガフィーザさんも! ありがとうございます!」




袋に詰まった食材を運ぶガフィーザは一旦、その場で止まると会釈をし、荷運びを再開させた。




「そういえば、王都まではここからどれくらいなのですか?」


「一週間程度ね。何も無ければだけど」


「なるほど……え? 早くないですか?」


「ええ。魔王城が意外と王都に近くて助かったわよね」


「な。こっちは出費も抑えられたし万々歳だ」




な、なんてことだ。我が城がまさか一週間と数日で落とされていたとは……。王都に近い場所に建てて人民に恐怖を与えようとしたのが逆効果だったか。




「なので、王都に帰り次第、ノーネさんの記憶探ししますよ!」


「あ、ありがとうね」


「いえいえ! お安い御用ですよ!」


「おいおい。随分仲良くなったな。お二人さん」


「ふふん! ノーネさんはね! もう私のお母さ……じゃない! 友達なんだから!」


「え?」


「へ?」




友達? 我と勇者が? 友達? 何を馬鹿げた事を言っているのだ。この小娘は。我の友人になった気で居るとはおこがましいにもほどが……。




「ち、違うんですか……?」


「え!?」




突然、涙目でこちらの目を覗き込んできたシンフォニーの姿に胸の鼓動が早くなり、目が見開いてしまう。まるで小動物が飼い主に捨てられる寸前の様な顔じゃないか。




「そ、そうですね! シンフォニーさんと私は友達ですよ!」


「ほんと!? 嬉しい! ノーネさん!」


「え、ええ」


「そうかそうか。まったく女同士ってのは結託が早いねえ」




なんだか妙な気持ちだ。人間の友人を持つのは初めてだ。ど、どう会話すれば良いのだろうか。しかも彼女は異性。いや、我も今は異性ではあるが。あ、確か異性はプレゼントに弱いとリリアが言っていた気がする!




「シ、シンフォニーさんは好きな物とかありますか!?」


「え!? 突然どうしたんですか!?」


「我が財宝の一部を貴殿に託そ……あ、あはは。な、なーんてね」




我は何をしているのだ!? 動揺しすぎたせいで自ら正体をバラしに行ってしまった!


二人が完全に硬直しているのでは無いか! もうダメだ! 我の馬鹿!




「ぷ、ふふふ! ノーネさんまるで王様みたいあはははは!」


「ノーネさんもそのような冗談を言うとは。このジン。新たな魅力に気づけましたぞ!」


「え、え、あど、どうも?」




良かった。冗談で流してくれたらしい。ジンの好感度が上がったのは正直困るが、万一を抜けた。




「うーん、好きな物かぁ。友達! 一緒に居てくれる人かな!」


「おいおい。そりゃ友達じゃなくて伴侶じゃねえか」




伴侶!? どう用意すれば良いのだ。そんなもの。わ、わからん。まさかじゃあ我が! と名乗るわけにもいかない! と何を考えているのだ!




「伴侶だけじゃダメよ! 私は多くの人に囲まれてたいの!」


「欲張りだなぁ」


「だから、ノーネさん! 私はあなたやみんなが居れば他に何も要らないわ!」




眩しい。眩しすぎる。こんな事を平気で言えるのが人間なのか!? 我はこんな無欲な存在にあったのは初めてだ。




「そ、そうですか……す、すいません。変な質問をしてしまって……」


「え!? ううん! 逆にごめんね!? 気遣いを無駄にしちゃって!?」


「ノーネさん。シンフォニーはああ言ってますがね。彼女、無類の人形好きで」


「わわわわ! ジンさんやめてよ!」


「あはは! ノーネさんを困らせた罰だ!」




人形か。宝物庫にも人形はあったがあれは悪しきものを封じ込めた人形だから渡せぬ。王都に行って探してみるか。このと、と、友達のシンフォニーと一緒に。




「人形一緒にみ、見に行きますか?」


「え!? わ、悪いよ! 私の事は良いんだよ!?」


「記憶喪失を助けてくれるお、お礼と思ってくれれば!」




断られるのが怖い。何がなんでも約束を取り付けたい。




「え~?」


「素直に受けとっておけ。これ以上断れば逆に失礼になってしまうぞ」


「わ、分かったわよ。でもノーネさん! 私もノーネさんにプレゼントするんだからね!」


「あ、ありがとうございます!」




たまには役に立つじゃ無いか。ジン。少しだけお前を見直したぞ。




「おっはよー! あれれ? 仲良しさんになったんですか!? ねえ!」


「朝から騒ぐな。ペトラ。おはようございます皆さん」




後からやってきたのはペトラとアキレスだった。しかしペトラの様子が少しおかしい。声に張りがありすぎだ。演技過剰すぎやしないだろうか。

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