外伝
七十年後の八月六日
八月六日。あの日から、七十年もの長い年月が過ぎた。けれども、七十年前のことは、今でも忘れていない。シゲルは、今は亡き家族たちの写真が置かれている、お
「今日は、
長女の
「もちろん、知っとるよ。わしのイチバンの楽しみじゃけんのぉ」
「それと、
ひ孫の
「原爆のことか……。まあ、ええか」
あまり気が進まないが、我がひ孫のため、そして、今は亡き下の兄妹のためにも、話すことにした。今でも
軽くため息をついた。
「こんにちは!」
「あー、お父さん。変わらず元気そうだね」
次女の
「皆、いらっしゃい」
シゲルが言うと、子供たちは、
「あ、ひいお
いつの間にか大人になった、
「ああ。ええよ」
「お
皆を部屋にあげた。手土産として、
「お
亡くなった家族や
シゲルは、お墓の前で、手を合わせた。今は亡き、皆の顔を思い出す。共に
シゲルが、
戦争が終わり、シゲルは家に戻った。
家には母だけがいて、妹の姿は無かった。妹は亡くなったと母は言った。シゲルは、父と弟は亡くなったと、母に伝えた。
顔を上げて『
お
和菓子を食べた後、シゲルは
「ひいお
「……そうじゃな。わしはその時、
「原爆は、ここら辺にも影響があったの?」
「ここら辺も、爆風とかで、
「わしの妹も、原爆によって亡くなったと」
「どんな状態だったとか……」
「わしは、直接は見とらんけれど、お母さんは会うことができて、見ていられないほど
着ていたモンペも、その色が
「その妹って、どんな人?」
「引っ込み
「まりつき、学校でやったことあるよ。すごいむずかしかった」
「そうか。でも、妹は本当に
「えぇ!すごい」
すると、シゲルは立ち上がり、
「これは、お母さんが大切にしてた物で、このボールのようなものが、
「わたしもやっていい?」
「ええよ」
「むずかしい」
苦戦しているものの、鞠突きをしている
全然できなくてつまんないと、
「じゃあ、弟の方は」
「弟も海軍に入って、わしと同じ
「そうだったんだ。やっぱり、大変?」
「そりゃあ、大変じゃけれど、生きとるだけ、まだありがたい。家に帰ってお母さんに会えたからのぉ。もし、わしが死んどったら、二人も生まれとらんかったけぇのぉ」
「じゃけぇ、生きていられるのはとてもありがたいことじゃ。戦争中は、お国のために死ぬことが、良い
「やっぱり、一番、
「こいびと!?」
「わしは見たこたぁないけど、兄二人が戦争にいって、一人になって。
「お母さんが?」
「
「恋人の方も、原爆で」
「ああ。当時、街の中心部では作業があって、皆が集まっていた。そこに、恋人の子も行ってね。原爆を直接、
「それで、二人は会えたの?」
「……会えとらんままかもしれん」
シゲルは、しょんぼりと言った。
「でも、きっとどっかであっていると思うよ」
「そうかのぉ」
「うん。だって、そんなに大好きな仲だったらさ」
「まあ、七十年も
「きっとそうだよ」
そんなふわふわし
「……それで、戦争については、どう思う?」
「戦争は……、ただ人間の
「……じゃあ、
「そりゃあ、カープができたことじゃな。戦後まもなく、できたカープじゃけど、つらく
「昨日のピースナイターは見たか」
「うん、もちろん見たよ」
「あ、今日もナイターだっけ」
「確かそうだったよ」
「わー、みなきゃ。先発だれだっけ」
「ありがとう。ひいお爺ちゃん」
「皆にも伝えるんじゃよ」
「わかった」
そう言って、
家に帰ってすぐ、
タスケの鯉。 桜野 叶う @kanacarp
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