第6話
「音楽をしよう!」
昼下がり、季節柄外はそろそろ太陽が本気を出し始めて今日も元気に輝いている
母お手製弁当を食べ終わった俺はまどろみの中で少しぬるめの風を堪能していた時だった
「お、おう」
希とはクラスが違うし、お互いに何となく目立たくないタイプだったので急な彼女の訪問に対応出来ずにいた
毎日音楽は軽音楽部の活動でやっている
まぁ音出し程度だが、、
「わたしね!考えたのよ!」
いつにも増して目を輝かせている希が鼻息荒く迫ってくる
あー母さんのパターンだと思って腹をくくろうとしたが
突然その目は冷静みを帯び真剣な眼差しになる
「emiriのライブに行って、私も大勢の前で歌いたいと思ったの」
その真剣な言葉に息を飲んだ
これは提案とか俺に意見を求めているわけでは無いと、瞬時に覚った
今の希の目と似たような目を何度も見てきたからだ
前世で
何度も何度も見た
絵美が歌う時
スイッチを入れた時は必ずこの目をしていた
その瞳の奥に何があるのか、俺はよく知っていた
「よし、智也と由紀も巻き込もう」
放課後、軽音楽部の部室はいつになく緊張感が漂っていた
皆に大事な話がある、と先に伝えていた
俺が口火を切る
「バンドを組もう。希がヴォーカル、俺がギター、智也がドラムで由紀がベース」
智也が首を傾げる
「え?俺らもうバンド組んでんじゃん?」
由紀の頭の上にもハテナが浮かんでいるように見えた
「違うそうじゃない
軽音楽部じゃなくて俺たちのバンドを組もう
ただ音を出して満足するんじゃなくて
大勢の前で俺たちの音楽をしよう」
「それって、、、、」
由紀が不安そうに声を上げた
「ライブハウスとかで演奏しようって話?」
その通りの意味を込めて深く頷いた
「それ、、、最高じゃね?」
智也が目を輝かせた
「絶対楽しいじゃん!このメンバーで大人になっても音楽しようってことだろ?俺は大賛成!」
嬉しかった
友達が仲間がそう思ってくれていることが素直に嬉しかった
「由紀は、、?」
希が不安げに聞く
希とは小学校からの付き合いらしくとても仲はいいが、由紀は元々人見知りで学校でも静かなタイプだ
希に付いてくる形で軽音楽部にも入った
ベースをはじめたのも高校からだ
「わ、私は、、、、」
うつむく由紀になんて声をかければいいかわからなかった
無理矢理なんて誘えない
楽しいと思えないなら無理強いなんて出来ない
「嫌ならやめとこう
それは由紀が選ぶことだよ
由紀は由紀だよ
でも私は由紀と一緒にバンドをやりたい」
希が、あの目で由紀を真っ直ぐ見つめながらそう言い放った
「、、、、、少し考えていいかな?」
沈黙の後由紀がそう小さく答えた
その日はそのまま練習もせずになんとなく気まずい空気のまま解散することにした
「なぁ希」
帰り道2人で歩きながら聞いてみた
「由紀は一緒にやると思う?」
希はこちらを向かずに空を見上げた
「さぁね、それは由紀が決める事だよ
ただ私はベースは由紀がいい」
「そっか」
俺がやるべき事は決まった
「おし!由紀の家いこうぜ!」
「え?今から?」
「そう!今から!」
俺はもちろん由紀の家なんて知らないので
希に案内をおねがいする
インターホンを鳴らす
「はい」
どうやら由紀本人が出てくれた
都合がいい
希が対応するつもりで構えていたが、横から
「一輝だけど、希が話があるってさ!」
希がびっくりした顔でこちらを見る
「俺はさ、思うんだ
これは確かに由紀が決める事だ
でもさ、希は由紀にベースをやってほしいんだろ?じゃあちゃんと伝えよう
さっきみたいに一言だけじゃなくて
希が思ってる事を話そう
俺は希にそうして欲しいって思ったからこうすることを選ぶことにした
希が選べないなら俺が選ぶよ
これが希の隣にいる事を選んだ俺だから」
少しでも返したいと思ったんだ
幸せを、ありがとうを、
一輝は一輝だよ
そう言ってくれた事を
心をすくい上げてくれた事を
一生かけて
少しづつ希に返すんだ
僕と俺がそれを選んだ
希は驚いた顔をしていたが深く頷いて
その目にあの光を灯した
絵美と同じ光
瞳の奥に輝く
金色の炎
必ずその意志を貫く覚悟
俺は僕は何度も見てきた
だから知ってる
君ならできる
でもさ、今度は、
今度は俺も隣でその道を共に歩くんだ
今度は僕が隣で君を支えるんだ
由紀が出てくる
2人で話が出来るように適当に言い訳をしてその場を離れた
空は暗くなりかけて星々が顔をだし、月は優しく照らし、空気はほんの少しだけ冷気を帯びてきた
この時間が好きだ
「お待たせー!!!」
希と由紀が2人で小走りで近寄ってくる
「私もやる!バンド!仲間に入れてほしい!」
由紀が確かに自分でそう言った
希は嬉しそうに笑っていた
「もちろん!!!
じゃあ俺らのデビューは文化祭だな!」
3人で盛り上がっているとスマホが鳴る
着信の相手は智也だった
「もしもし一輝?聞きたいことあるんだけどさ
バンド名って何にすんの?」
1つ考えてたのがある
「今さ、由紀と希と3人でいるんだ
由紀もバンドやるってさ
ちょっとスピーカーにしていいか?」
「おおーーー!まじか!!これで結成だな!
スピーカー?いいよ?」
スマホのスピーカーボタンを押して由紀と希に智也から電話がかかってきていることを伝える
スマホを手に持って希と由紀と智也に話しかける
「バンド名さ、俺1つ考えたんだよ」
ここ最近の出来事を思い出す
絵美との事を思い出さなければ
こんな事考えもしなかったかもしれない
「俺たちはまだまだ自分の道を歩いてるなんて言えないし、音楽だってなんとなく趣味でやってきた
でもさ、いつかきっと自分の道を歩き出して自分の色を見つけて自分っていう花になる」
希がそう言ってくれなければ
もしかしたら一生気付かなかったかもしれない
「bouquetぶーけ、、、、ってどうかな」
由紀が大きく頷く
智也も「いいじゃんそれ!」と電話の向こうで言っていくれた
「花束、、、、」
希がそう呟いて突然抱きしめてくれた
「さいっっっっこうだよ!一輝!」
今までに見た最高の笑顔だった
「智也!まだ走ってる!周りの音をよく聴いて!
由紀はもっともっと前へ出てきて!ベースはバンドの要なんだよ!」
軽音楽部の部室に活気のある声が響き渡る
「くっそー!ここ絶対焦っちゃうんだよなぁ
由紀!ビビってんじゃねーぞ!」
希の激に智也もやる気が漲っている
汗を滴らせながら腕まくりをしてもう1回!とドラムスティックを構える
「ビビってないもん!智也こそちゃんとペース守ってよね!」
あの控えめな由紀でさえ大きな声を出して悔しそうな顔をしている
熱の篭った目でもう一度ベースを構える
「よし!じゃあいくよ!もう1回!」
希がそう号令し、皆に緊張が走る
「あ、あの、、、、」
皆が意気込む中
控えめに声を上げたのは俺だ
「俺は、、、??」
「「「外しすぎ!」」」
3人で声を揃えて返された
そう、今まさに文化祭ライブへ向けての全体練習の足を引っ張っているのは誰でもなく俺だった
全体練習を初めて数日は良かった
皆なんとなく楽器に触れていただけなので当然知識もテクニックもほとんどなく皆で頑張ろうね!と、意気込んでいた
それなのに、、、、
前から歌が上手かった希は元より、智也と由紀はメキメキと上達していき
俺だけ置いてけぼりを食らっていた
どうやら今世でも音楽のセンスは無いらしい
そしてライブまでは後3日という絶望的な状況だ
智也にいたっては
「本番ではアンプに繋がなきゃいいんじゃね?」
とか言う始末だ
自分が情けなく思える
「一輝!丁寧に演奏して!私が合わせる!」
希はそう言ってくれる
だが目はあの目だ
本気だ
足を引っ張っている場合じゃない
外は夜の帳が降りて
月が煌々と輝く午後8時半
俺たちはようやくその日の練習を終えて帰路につく
「腹減った〜なんか帰りに食って帰ろーぜ」
練習後の後片付けを終えて昇降口へ向かいながら智也が言い出した
「智也いいこと言うね〜私もお腹ぺこぺこだよ〜」
由紀も疲れた表情で賛成の意を示す
「私、なんか甘い物食べたいかも、、、」
希がそんな事を言い出すもんだから大喜びで由紀が色々提案していた
「、、、、俺ちょっと用事あるんだよ!
今日はごめん!」
このままじゃダメなんだ
ちゃんと毎晩帰ってからも練習はしているが
全然皆に追いつけない
あと3日しかないけど
それでも出来ることは全部やるんだ
今日は徹夜の覚悟で練習だな
「えーそーなん?じゃあしゃあねぇなぁ
3人で行こうか」
「おう、ごめんな」
じゃあ、おつかれーと皆口々に労いの言葉を述べて俺と3人は別れた
五分ほど歩いてい引き返す
部室で練習しよう
家では思いっきりできない
文化祭前だし残っている生徒もいるし大丈夫だろう
誰もいない部室に1人で戻りギターを構える
ふと使い込まれたソファが目に入る
これは誰が持ってきたんだろうかとか思った事もあったな
このソファを部室に持ち込んだのは『僕』だ
絵美とはこの高校の軽音楽部で知り合った
と、言うか
絵美との接点を持つために軽音楽部へ入部したのだ
懐かしい気持ちに覆われてソファに座る
これを持ってきた理由は今考えても子供っぽいものだったけど
絵美は笑ってくれた
俺がギターを弾いているなんて知ったら彼女は驚くだろうか
いや、きっと笑うに違いない
バカにしたように、でも嬉しそうに
さて!練習しよう!本番は3日後だ
立ち上がりギターを構え直して演奏する
どうも指が上手く動かないんだけど
なんかコツとかあるのかな、、、、
何度も何度も繰り返す
自分が書いた曲
yarnarの歌詞を口ずさみながら
ガチャ
突然扉が開いた
「ほらやっぱり!!!!」
「なんだよ水くせーなー!!!」
「一輝くんだけずるいよ!!!」
3人がコンビニ袋を手に帰ってきた
由紀がそそくさとベースを手にして位置につく
「私だってもっと上手くなりたいもん!
負けないよ!」
智也もいつの間にか定位置に座っていた
「しゃー!じゃあ最初からいこうぜ!」
希が俺の目を見て言う
「私たちは4人でbouquetブーケでしょ?」
3人の瞳の奥に
金色の炎を見た
心の奥が熱かった
やるぞ、、、、やるぞ、、、!やるぞ!!!!
「よし!じゃあ、始めよう!!!」
本番当日の朝いつもより早く目が覚めた
リビングへ向かうと母さんはすでに起きていて朝食を作ってくれていた
「今日観に行くから〜頑張ってね〜」
へへへーといつもの調子で声をかけてくれる
「うん、みててよ」
母さんは少しびっくりした顔をしていた
「お、おはよ」
部室の扉を開けるとすでに智也が来ていた
初めて見る智也の不安そうな顔は失礼だが少し笑えた
「やべーよもう本番だよあと何時間?あーヤベーよ」
と1人でブツブツ言っている
「おはよー!!」
と元気よく入ってきたのは由紀だった
これも意外だがとてもワクワクした様子で楽しそうにベースを入念に手入れしていた
「おはよ!みんな揃ってるね!」
最後に希がきた
彼女の顔つきがいつもより晴れやかなのは
その意気込みを物語っているのだろう
俺たちの出番はお昼だ
始まるんだ
最後の文化祭
そして
bouquetブーケの初めてのライブが
舞台袖で円陣を組む
「ちょっと智也!震えすぎだよ」
由紀が笑う
つられて俺も希も笑う
「だってさーーー」
不安でいっぱいいっぱいの智也が珍しく弱気に言う
「大丈夫だよ智也
私達は選んだんだよ
バンドを組むことを、音楽をする事を
この道を歩く事を
これは最初の1歩目だよ」
希がはっきり言う
そう、、、
その瞳の奥に光を灯して
「そう、、だな、、そうだよな!
うしっ!やるしかないな!」
智也の顔つきが変わり
由紀も真剣な表情になる
「じゃあ、リーダーから一言!」
3人がこちらを向く
「え?!俺?!」
「他に誰がいるのさ」
「そりゃそうだろ?当たり前じゃん」
「一輝くんがリーダーだよ」
皆がその目を俺に向ける
何度も何度も見てきた
隣で、
遠くで、
その意志の強さを知っている
折れない意志を
自分を貫く心を
「俺たちは皆、今はまだ花なんて呼べない
それでもいつかきっと
自分の花を咲かそう
これが第一歩だ
自分達で決めて、歩き出す
第一歩だ」
いつか『俺』にも『僕』にも
その眩しい目ができる日が来るかな
来たらいいな、
その時に君の隣に居れたらいいな
今度こそ君の夢の行く末をみるんだ
遠くではなくて
近くで
「いこう!」
皆が準備を整えて頷き合い、希が合図を出す
暗幕が上がる
そこにはパラパラとお客さんが座っている
こんなに少ないお客さんでも
いざ、目の前にすると足が竦む
「こんにちは!軽音楽部です!」
希がマイクに向かって吠える
そしてちらとこちらを見て
ニッと笑った
どうやら見透かされていたようだ
「どうやら緊張しているバンドメンバーもいるみたいですが、聴いてください!」
合図で智也がスティックを合わせる
いつの間にか緊張もどこかへ行ってしまっていた
打ち合わせ通りのセトリでライブは滞りなく進み
最後の曲になった
「私たちは、、、、」
最後のMCで希が急に言葉に詰まる
皆どうしたんだと一瞬不安になったその時
「私達はまだ何者でもありません!!!
きっとこれから色んな経験をして少しづつ大人になって、いつか今日の事を思い出すでしょう」
こんなMCは打ち合わせにはない
「あの時は楽しかったねーとか緊張したねーとか話すでしょう」
完全に希のアドリブだ
「でも、、、、でも!!!私はそれじゃ嫌だ!!!!!」
ギターを構える格好をやめて手を離した
「きっといつか花を咲かせるんだ!それは綺麗な花じゃないかもしれない!大きくないかもしれない!
それでも私達は私達だけの花を絶対に咲かせてやるんだ!もう私達は歩き出したから!だから、、、、」
その叫びはきっと誰かに向けて伝えたい想いだ
きっとその誰かに届けたい心だ
「だから私達はこれからも選び続けます
聴いてください私達の曲
yarnarヤーナー」
想ってはいけない
願ってもいけない
望むことは許されない
心を奥にしまい込む
二度と顔を出さないように
笑顔を顔に貼り付けて
悲しみなんて
苦しみなんて
いっそ無かったことにして
何重にも鍵をかけて
ただ前を向いて歩いていけばいい
わかってるんだ
これは
きっと愛なんかじゃなく
あなたの優しさなんだってことも
混ざって濁った色は
いつか来る終わりを始めるために
It’s beautiful life
想ってはいけない
願ってもいけない
そんな事はわかってるのに
心が暖かいと呟く
消す事はできなかった
もう恐れるなこと気持ちを解き放とう
光のない世界から大事な想いを
すくいあげよう
Yearner.........
諦めたい訳なんてないんだ
Yearner.........
もがいて光を探して
手を伸ばす
手を伸ばす
手を伸ばす
混ざって濁った色は
いつかきっと澄み渡る
月が照らしてくれる
気づいたんだこれはきっと
優しさなんかじゃなく
あなたの愛だってことに
混ざって出来た新しい色は
これから歩き出す
自分の道のために
It’s beautiful life
これからも俺たちはずっと
選び続ける
歩き続ける
きっとこの曲は届く
今、約束を果たそう
「、、、、、、」
楽器を部室に戻し
ドアを閉めた
全員一言も発さずに立ち尽くす
「、、、、、最高だった」
希ががぽつんと呟いた
「、、、、、俺もっと上手くなる」
智也も呆然と立ち尽くしまたた吐き出した
「、、、、私この先ももっと演奏したい」
由紀がその場にへたりこんで呟いた
やり切った
俺達は初めて自分達の全力を出して
自分達の音楽をした
結果は目には見えないが
最後に貰った拍手はまばらで、絶賛!なんてものからは程遠いが
それでも俺たちは持ってる全てを出し切った
「俺たちはやったよ、、、全力で
次も、その次も、、、これからも、、!」
ようやく4人に笑顔が戻る
「お疲れ様」
疲れきった顔で笑い
今まで感じた事ない充実感の中
重い右手を上げる
「一輝、ありがとな
これからもよろしく
お疲れ!」
パンっと智也がハイタッチに応えてくれる
「一輝くん、誘ってくれて本当にありがとう
私も変われる。歩き出せる」
由紀もハイタッチしてくれる
「お疲れ様、、、!」
俺と希の間には最早長ったらしい言葉なんて必要ない
目を合わせて
お互い疲弊した顔で
ニッと笑い合いハイタッチした
「おっしゃーーー!じゃあ片付けして打ち上げがてら反省会しね?俺また走ってたよね?ごめんんんん」
智也がいつもの調子を取り戻して提案してくれた
「いや!智也はそうでも無かったよ!私も最後の最後ちょっとビビっちゃったかも」
由紀が少しだけシュンとして言った
「2人とも多分今までで1番いい感じだったよ」
事実だった
1番下手な俺が言うのはおかしいかもしれないけど
本当に2人ともいつもより上手かった
本番という空気がそうさせたのかもしれないけれど
1番の要因は希のMCだったと思う
あれで全員の心が1つになった
そんな気がする
「やっぱりMVPは希ちゃんのMCだと思う!」
由紀が少しだけ元気な声でいいだす
智也も同意を示し
俺も頷く
希はほんのり頬を赤らめていたが
嬉しそうだった
「あ、あの、、、、俺は??」
恐る恐る聞いてみた
「「「練習がんばろう」」」
が、がんばります、、、
「まぁでも、頑張ったね一輝」
ニッと笑って希が言ってくれた
俺は彼女のその笑顔が見れたので、自分に合格点をあげることにした
よくやった、俺
「コンコン」
部室の扉をノックする音が聞こえた
予感はしていた
いや、確信に近いものを感じていた
「はーい??」
希が対応のために扉をあける
息を飲んで硬直するのがよくわかった
「え?誰?誰かのお母さん?」
智也がその様子を見て皆に聞く
「え、、、、?え、、、?」
由紀はその人を知っているのか
口に手を当ててあたふたしている
「突然ごめんなさい
さっきの演奏とても良かったわ
少し聞きたいことがあるのだけど、、、今いい?」
そこに立っていたのは
この軽音楽部のOGであり
20年前に武道館ライブを大成功させ
希の憧れの人であり
『僕』の元恋人
emiri、、、、絵美だった
「どうぞ」
なんとなく確信に近いものがあった
根拠なんてないけど
絵美がここに来ている気がしていた
きっと彼女にはあの曲が届くと思った
「懐かしいわねぇ
私、ここのOGなの
あ、このソファまだあるのね」
懐かしむ様子で部室を見回した絵美
「聞きたいことは、yarnarヤーナーの事ですよね?」
俺が単刀直入に本題に入る
少し驚いた様子の絵美
「あの曲の歌詞は俺が、、『僕』が書きました」
「なんであなたがあの曲を知っているの?」
「僕の名前は一輝です」
目を見開く絵美
彼女の動揺がこちらまで伝わる
「少しだけ、2人でお話しませんか?」
希の方をチラと見ると
真剣な目で頷いてくれた
智也と由紀を手招きして部室から出るように促す
すれ違いざまに
「一輝は一輝だよ」
と、魔法の言葉をもう一度くれた
「ありがとう、希
大好きだよ」
そう返した
「さて、、どこから話そうか」
ソファに2人で腰掛け
なんて切り出せばいいか分からずに沈黙を破るようにそう口にした
「秘密基地みたいだろ?」
僕と絵美にはその言葉だけでじゅうぶんだったようだ
彼女がクスクス笑い出す
「とても信じられないわ
でも一輝なのね」
このソファを持ってきた時に
僕はそう言った
「その方がなんだか秘密基地みたいでいいじゃないか」
それを聞いて絵美は笑ってくれていた
「そうでもあるし、違うとも言える」
「今の僕は俺だし絵美との大切な時間は消えていないけど、あの時の僕はあの日に死んだ」
「そうね、約束も守らずに勝手に死んだ」
「ごめん」
「謝って済む問題じゃないでしょ?突然大切な人がいなくなったのよ?しかも私にとって1番大切な日に」
「そうだね、ごめん」
「私があれからどれだけもがき苦しんだか、、あなたにわかる?」
「ごめん」
「もがいてもがいて、、、でもやっぱり苦しくて、、私の炎は消えちゃった」
いつしか彼女の瞳から涙がこぼれていた
「涙なんて枯れ果てたとおもっていたのに」
そう言って俯く彼女に僕は何ができるだろう
もう何もしてやれる事はない
「まだ消えてないよ」
僕にはもう何もできないけど
俺ならできる
いや
俺と僕なら
「まだ消えてない」
彼女の目を真っ直ぐ見すえて
そう告げた
「でも、、、歌ってると思い出してしまうの、、、あの日の事を、、」
胸が押しつぶされそうになる
心が痛い
それでも、彼女に伝えないといけない
「遅くなったね、絵美」
「今、約束を果たそう」
そう言って立ち上がりギターを手に取る
アンプに繋いでチューニングをする
彼女は黙ってこちらを見ていた
「いくよ?」
yarnarヤーナーを歌った
下手くそなギターと聞くに耐えない歌声を
彼女に精一杯贈った
歌い終わって一瞬の沈黙の後
「、、、、はは、、、あっははははは」
彼女は笑ってくれた
「へっっっったくそ」
2人で笑った、あの日のように
涙で顔をぐしゃぐしゃにして
笑った
別れ際に彼女は
「あの子、、、ヴォーカルの希ちゃん?才能あるわよ」
そう告げて
私も負けてられない
ぼそっと言ったのを聴き逃しはしなかった
その目を見なくともわかった
きっとあの光が灯っていたのだろう
綺麗な黄金の炎が
中庭に3人の姿を見つけて駆け寄る
質問攻めにあったが先に言うべき言葉がある
「希、次のライブはいつにする?
新しい曲を作ろう!」
俺たちはようやく歩き出した
これからも歩き続ける
本当の花束になれるように
bouquetブーケにとって最初のライブから5年が経った
結成5年記念ライブのチケットは有難いことに完売していた
小さなライブハウスではあるけど、、、、
武道館まではまだまだ遠い道のりらしい
「やばいって、、、お客さん多いって、、、」
智也が不安げなセリフを吐く
「もういい加減慣れなよ智也」
由紀が呆れ気味に智也に言う
なかなか堂々としている
「bouquetブーケさん、準備お願いしまーす」
スタッフの人から声がかかる
「よし!いこう!!」
希の号令で皆の顔に緊張が走る
円陣を組むのは俺たちのルーティーンになっていた
「智也!びびんなよ!
由紀!今日もガンガン前にでていこう!
希!俺たちは希の思う通りに演奏する
思いっきり歌っていこう!」
「「「一輝は落ち着いて!」」」
は、はい
相変わらずでごめんなさい
「おし!今日も俺たちを奏でよう!!!」
ステージに立つ
何度目だろうか
今でも緊張はする
でも、、こんなに高揚する事は他にない
俺たちの目の奥にはきっと光が灯っている
俺たちは歩き出した
歩き続けてきた
これからもずっと
俺達は俺達であり続ける
「こんばんはー!今日は沢山集まってくれてありがとう!!!!
じゃあ一発目は私達の始まりの曲から!聴いてください!
yarnarヤーナー」
完
後書き
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました!!!!!
私にとって初めての作品【花束】いかがでしたでしょうか??
読みにくい点や、力及ばずな部分も多々あったかと思います
それでも付き合ってくださった皆様には感謝しかございません!
書きたいと思ったから、やりたいと思ったから初めた小説がこんなに大切なものになるなんて、、、
全て読んでくださった皆様のおかげです
重ねてありがとうございました!!
【花束】は終わってしまいましたが、私にとってこの作品はこれからの始まりの作品となりました
私にとって宝物になりました
この気持ちをどうにか皆様へ少しでもお返ししたい
私はこれからも書き続けようと思います
いつかありがとうをお返し出来たら嬉しいです
では、この辺で
関わってくださったすべての人へ感謝を込めて
次の物語でお会いしましょう
えにあおじ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます