Poetic:03「師弟という言葉を知ってますか」
リープフロッグ現象――新興国が先進国から遅れて新しい技術に追いつく際、段階的な進化を踏むことなく、途中をすべて飛び越して一気に最先端の技術に到達してしまうことを指す。
これもまさに、夢見人が夢見た世界である。
「昔の人で、ルソーっておじさんがいったんだ。『都市は人類の掃き溜めだ』と」
清志はほくそ笑む。
「今日までの建築は既存する型にぼくら自身があわせなくては、その場にいることもできない。型にあわないものはそこにいることもできず、消えるしかなかった。自分は消されたくない、ここにいたい、型に合わない人はもがきながらその場に必死にしがみつき、心が荒んでいき、犯罪を犯すのかもしれないね」
都市が夢を奪い、吸い上げて、夢見人を狂気に走らせているわけだ。まさに〈商売敵〉である。
「人の性格は、先天的なものもあるけど、大部分は環境が決定するんだ。都市が双子なら、知識と意識が人間に匹敵するものということになる。もしかすると、それ以上の存在になれるかもしれない」
もし清志の話が実現するなら、都市が夢見人に夢をみせるようになるかもしれない。
つまり、ヨルそのものが都市になるようなものだ。
それはすごいことだ。
わたしは彼に、すぐ都市を造ってとすりよるが、「変化というものはね、トランプをめくるように変わったりはしないよ。どんなことでも右から左へ、物事進むならそれほど楽なことはないからね」と困った顔をする。
「マンション設計だと、コンピューターをつかって『鳥かご』みたいな図をつくるんだ。かごに入ればそれでいいという建築設計をしていたら、そんなもんだとおもってしまうし、街に調和が取れた設計をするなんて考えにもならない。最近だと、設計自体をコンピューターに任せる、コンピュテーショナルデザインの利用が広がってきてる。人間の思考の限界を越えたアイデアが出せるかもしれない、と期待されてるんだ」
夢見人は、夢みることすら機械に奪われてしまったということだろうか。あらたなる〈商売敵〉の登場である。
「何事もすぐにはできないけど、ひたむきな平凡さが当たり前を見直し、できることから一つひとつ積み上げていくように変えていくことが大事だよ」といって、「師弟という言葉を知ってますか」とたずねてきた。
わたしは首を横に振った。
「師は常に弟子のことを心配し、弟子は黙って師を尊敬する。都市は複合的な現象から現場までを通して、人の再構築のための複合的な地域としてあり続け、積み重ねた経験から経験を通じて成長し、都市を決して終わらない永遠なる場所とする。デジタル化がもてはやされる世界には、アナログ思考こそが大切で人の道だと、ぼくはおもうんだ」
去りゆく一切は歴史にすぎない。でも、やがて起こるべき出来事は歴史などではなく、現実だ。清志の夢がいつか現実のものとなり、夢見人の歴史に貢献できることを、わたしは願う。
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