Poetic:02「そんな都市があるの?」

 清志は、わたしの愚痴を黙って聞いて、答えをくれる。


「都市開発の大枠を決めるのは行政だよ。土地利用の規制や建物の容積率を緩和したり税制や金融面での優遇策を取ったりしてね。つまり国が旗を振り、不動産会社や鉄道会社などデベロッパーと呼ばれる民間開発業者が進めていくんだ」


 ついで清志はわたしに、建築を考えるときは「その建築家の詩的意図ポエティックを定義づけるところから試みる」という。


「知の建築家、線の建築家、面の建築家、メカニカルな構造の建築家、空間のボリュームの建築家など、数多く詩的な建築を見てきたんだけど、それらはどれも同じようにみえて、まったく違った。でも、分類するのもままならないくらい、いやむしろそんなものはなくて、それぞれまったく異なる存在をひとからげにして、とりあえずそういうものがあるんだと納得するくらいの建築があるんだ」


 そんな建築も歴史をふくんでいる、と語った。

 歴史は時間でなく空間。歴史を語るうえで事実はどうでもいい。注目すべきは「そこで」「誰が」「何を」「なさんとしたか」その意図だ。建築も然り――と。


「一人の建築家がした偉大な功績は歴史的に称えられるべきだけど、彼が生み出した建築の意図を読みとることの方が、そこで暮らす人たちにとっては最も重要で、はるかに価値のあることだよ」


 にこやかに語る清志の話を聞きながら、わたしはあくびを我慢して、とりあえず黙ってうなずいた。


「人の作り出した都市とは、人間の従属物や植民地としてでなく、パートナーよりも近く似て否なる存在、鏡の中の自分よりも生々しく、血を分けた兄弟よりも厳しい関係でありながら、手の届かない星に触れて感触を知ることができるくらいの近い自然であるべきなんだ。都市は双子、もうひとつの人間の姿、共に成長し、永遠を作り出すことのできる唯一の場所でなければならない……なんてね、受け売りだけど」


 清志はむずかしいことを、さらりといって、教えてくれる。


「そんな都市があるの?」

「省エネや資源循環利用、都市の緑地化など環境負荷を減らして自然と共生する都市づくりは世界各国でも見られるようになってきたかな。それに経済成長という点においては、リープフロッグ現象が東南アジアやアフリカなど新興国の各地で起きているからね」


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