Poetic:01「こんな街、一体だれが作ったんだぁ」

 歴史は、偶然と欲望と生理がからまってできている。

 わたしは歴史は嫌いで、おもい出が好きだ。どちらも過ぎさった時代からくる苦痛ならば、日付よりも事物に執着したい。もっといえば、事実などどうだっていい。重要なのは、伝えられるときに守られる真実の内容だ。


 死と再生――二つの時間の裂け目にできた時間外の境界世界にあるティル・ナ・ノーグは、太陽の沈むわずかなあいだにだけ、国の姿を垣間みることができる。

 その瞬間は宇宙の秩序が止まり、自然と超自然の障壁は取り除かれ、神聖な生き物や死者の霊が自由自在に行きかい、ときに強力な力で世界を干渉するからだと聞く。

 太い線が混沌の中から浮かびあがり、奔放に躍動し、たくましく渦をまく。幾重にも幾重にも重なり、のたうちまわり、ぐるぐるうねってはとんでもないところへのびていき、無限に回帰する。宇宙はきよらかな広がりではなく、無限の運命がびっしり詰まった透明な混沌、夢そのもである。


 かつて異国より渡ってきた男は東洋の島国を〈小さな妖精の国〉と表現し、「人も物も、みな小さく風変わりで神秘をたたえている。青い屋根の下の家も小さく、青いのれんを下げた店も小さく、青い着物を着て笑っている人々も小さいのだった。おそらく、この日の朝がことのほか愉しく感じられたのは、人々のまなざしが異常なほどやさしく思われたせいであろう。不快なものが何もない」と書き残している。

 ティル・ナ・ノーグは、今日死んだものは明日生き返り、料理されながら生きる豚がいて、汲めども尽きぬ酒樽があるといわれる緑多き常若の国。まさに夢見人が夢見た世界である。

 それなのに、夢見人の世界に妖精の国があると聞いては行かずにはおれず、わたしは夢を盗みに足を踏み入れた。


 夢見人の世界はいやだ、とおもうことがある。

 それはつまり、おせっかいでおしゃべりな都市の日常だ。規則正しく並び、ホーム内に流れるアナウンスをうっとうしくおもわず、せまい檻に自ら入り、運ばれていく。騒音に憧れとよりどころをもとめ、電子機器で自らを縛り、よどんだ沼の中で溺れることを楽しみとしている。おまけに、どこへ行っても似たような風景ばかりを大量生産して、さびしさを見せつける。

「こんな街、一体だれが作ったんだぁ」

 ときどきうんざりして、わたしは清志に泣きついてしまうのだ。


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