Dream mage:26「夢を盗みに」
闇のオークションの一件で、わたしは仲間を病院送りにされてしまった。
たいしたけがではないらしいが、一応見舞いに足を運ぶことにした。
院内のベッドに横になる彼らは、「傷口から血か、それともウイスキーが出ているか見てくれないか」というアイリッシュ・ウイスキー中毒者のお決まりジョークをわめきながら、わたしを出迎えてくれた。
「あら大変、包帯がウイスキーでにじんでるよ」
お返しにわたしは、彼らをからかってやった。
それだけジョークがいえる元気があるなら大丈夫。
「あんたたち、はやく治しなさいよ」
治りたいけど飲んだ分がでてしまって治るものも治らない、と駄々をこねてくる。
「そんな泣き言をいうとおもった」
わたしは差し入れに、アイリッシュ・ウイスキーのジョン・パワーズ・ゴールド・ラベルをもってきていた。ハワードの企みに加担したあのバーマンが、お詫びの一本、とばかりに気前よく進呈してくれたのだ。
「パワーズを飲んで、せいぜい力をつけなさい」
彼らのベッドから遠いところにある棚に置いて、わたしは部屋を出た。
ハワードのいる病室にも立ち寄った。
つきそいのライラに花束を渡し、ベッドの脇の椅子に腰かける。
彼は眠っていた。年輪のようにきざまれた顔のしわを数えるには骨が折れそうなほど、みるからに老人になっていた。
「まだ目が覚めないの?」
わたしの問いかけにライラは首を縦に振り、「彼だけが起きてくれないのです」泣きそうな顔をした。
彼女は言葉にさえしなかったが、ハワードのことを好いているようにわたしの目には映った。
だから、「キスをしたら目を覚ますかもよ」そっと耳打ちしてあげた。
ライラは、なにを言うんですかと怒ったが、耳まで真っ赤になっていた。
「試してみる価値はあるとおもうけど。されるのを待つより行動しないと、盗めるものも盗めないからね」
「……夢泥棒らしい考えですね」
彼女は嫌味のつもりでいったのかもしれないが、わたしにとっては最高の褒め言葉だった。
「元気になったらまたくるよ。ライラ、お幸せに」
彼女の肩を軽く叩いて、わたしは部屋を出た。
廊下を歩きだすと、背後からライラの声が呼び止める。
「これから、どちらへ行くのですか?」
わたしは不敵に笑みを作って振り返り、
「夢を盗みに」
親指を立てた腕をつきだした。
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