Karna:02「カスミはどうなりたいんだい?」
「……すみません、わたしのせいで失敗して……ごめんなさい」
わたしにできたことは、ただただ頭を下げて謝ることだけだった。
「そんなに落ち込まなくてもだいじょうぶ。謝らなくてもいいよ。盗めるときは盗めるけど、ダメなときはなにをやってもダメだよ」
「でも、オボロが許してくれるとは……おもえないので……」
「文句をいいたいやつには、いわせておけばいいんだよ。そんなに欲しけりゃ、自分で盗みあつめてみろってね。オボロが俺たち夢泥棒の腕に勝っているのなら、自分でほいほい集めればいい。それができないから、俺たちを使いたがるんだ。だからといって、相手に使われるような夢泥棒様じゃないってところを、カスミもみせつけてやらないとダメだからな」
彼の言葉をきいて、わたしの邪推は幼稚で根拠がなかったと気付かされた。
だから彼に、
「あんな夢買いの下で、よく働けますね」
想いのうちを吐露できたのだ。
自分でも驚くほどに、一度口にすると止まらなかった。
「うまく盗めなかったら、わたしたち夢泥棒の忌み言葉をくり返しいわれるんだから。耐えがたい苦痛ですよ」
わたしのボヤキがそんなに面白かったのか。
隣で聞いてくれたカルナは、屈託のないはなやかな声で笑った。
「駆け出しのころは、俺もよくいわれたよ。『オールドじゃないヤングだ』って叫んでオボロの顔面を蹴り飛ばしたら、スッキリするんだけどね」
「そんなことできたんですか?」
「いいや、できなかった。カスミも身をもって知ってるだろ。あの呼び名をされたら、激痛に襲われて夢泥棒の俺たちは動けなくなってしまうのを」
それでもカルナは、オボロの期待に答えて働いてきたのだ。
その事実が、わたしには信じられなかった。
「わたしとちがってカルナは、はじめから技量がすぐれていたのではないですか」
ふてくされてつぶやいたわたしにむかって、カルナは首を横に振った。
「そんなわけないだろ。オボロの誘いをきいたとき、いい話だとおもったのは確かだけどな。あのオッサンとはニューファンドランド島で出会ったのだけど、自然は豊かで観光客はくるけど、盗夢の腕をいかす場所とはいえない。俺は、もっと大きな世界を駆けまわって盗む夢泥棒になりたかった」
「だから、オボロについてきたのですか」
「そう。オッサンの話は魅力的だった。でも、みるからに怪しいだろ、あいつ」
確かに、わたしは笑みをうかべてうなずく。
「だから信用はしてない。でも、これはチャンスだとおもった。世界を駆けめぐる偉大な夢泥棒として生きていくチャンス。夢泥棒を縛る呪詛の名前でよばれてバカにされて生きるのはいやだけど、あいつに利用されるのはもっといや。だから、こっちもあいつを利用してやろうとおもったのさ」
「利用?」
「そう、利用するんだ。あいつのいうとおり働きながら、盗夢の技術を磨き、世界をめぐる。その先は、あいつの元から独り立ちするつもりだ」
「カルナなら、独り立ちできるだけの技量をもっているとおもいます。でも、いまもオボロの下で働いているのはどうしてですか」
「俺なんてまだまださ」
カルナは首を横に振った。
「質と量、ともにそろえて盗めるようにならなければ」
それを聞いて、わたしはため息をついた。
カルナほどの技量をもっていても、未だにあの夢買いオボロにこき使われている。それでもいつかは独り立ちができる日は来るだろう。だが、それは彼だからであって、未熟なわたしには到底不可能だと嘆いたのだ。
「どうしたら、カルナみたいになれるんですか」
「そうだな」
カルナは少し間をおき、逆に聞き返された。
「カスミはどうなりたいんだい?」
わたしは即答できなかった。
のちに、カルナは夢魔導師シンと結婚した、という噂を耳にした。同時に、幻獣に襲われときの大けががもとで、二度と夢泥棒として活躍できなくなった――とも聞いている。
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