Karna:01「ヴィエ・メクスキュゼ」

 あれは、いつだったか……。

 夢買いオボロの元で働きだしたばかりのころ。

 一度だけ、夢泥棒カルナと組んで仕事をしたことがある。


 耳飾りをつけた彼は風のごとく夢を盗むため、〈疾風のカルナ〉と呼ばれるほど、わたしなんかより数倍も盗みがうまかった。たった一人で一日、上質の夢玉を一〇〇〇〇ポンド盗んだ偉業は、未だに破られていない。

 そんな凄腕の相手と組んだところで、なんの手助けもできなかった。むしろ彼の足を引っ張ってしまい、ふだんよりも盗みの数が減ってしまったのだ。


ヴィエ・メクスキュゼどうかお許しください

 さすがに申し訳なくおもい、知ってる言葉で丁寧なものをえらんで謝るわたしに、「気にするな」と、カルナは笑いかけて落ち着かせてくれた。

「いままで一人だったんだろ。仲間と仕事するのははじめてなんだから、うまくいかないこともあるさ」


 カルナは、すがすがしいほと気持ちのいい性格の持ち主だった。

 問題があるとすればわたしのほうだ。なにぶん、一人働きがながかったせいか、夢買いオボロの下についたとはいえ、同業者相手にどう接していいのかわからず、満足にうごくことすらできなかった。

 彼は、たとえ一人でも一日で一〇〇〇〇ポンドの夢を盗むのだ。

 くらべてわたしは、一カ月でせいぜい百人ほどの夢見人から盗めるようになったばかり。比較すれば、七千分の一の量しか盗めていない。おまけにわたしの盗んだものは、どれも粗悪なものばかりときていた。質量ともに、彼には遠くおよばないわたしが、どうしてカルナと仕事をさせられているのかがわからなかった。


 夢泥棒のいう〈混乱させるF〉を三つももっている、ずるがしこいオボロのことだ。カルナとの仕事には、なにか得体のしれない企みが潜んでいるかもしれない。たとえば、彼はオボロの命令をうけ、わたしが真面目に盗みを働いているのか監視しているのかもしれないと、稚拙な邪推が浮かぶ。


 当時のわたしはなにもかもが未熟で、オボロにこき使われたくないばかりに、どうしたら逃げ出せるのか、毎日そればかり思案していた。

 かといって、ノルマをこなさなければ、うまいアイリッシュ・ウイスキーにはありつけないし、「愚鈍なるオールド・ハッグ」と蔑まれ、夢漬けのままほったらかしにされかねない。盗みたくて盗むのではなく、損得勘定から夢を盗む。気づけば夢買いオボロに課せられた苦役となっていた。

 そんな気持ちだったから、カルナと組んで仕事をしたにもかかわらず、予定していた半分の夢玉も盗めなかったのだ。

 どんなひどい仕打ちがまっているのやら……。

 考えただけでも、身の毛がよだつほどに恐ろしかった。

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