Anecdote:01「夢の力とはなにか」

 わたしは女。わたしは夢泥棒。

 前にもいったように女夢泥棒でも女性夢泥棒でも女子夢泥棒でもない。ほかの言い方をするなら、夢をみない少女。夢をみては、夢泥棒はつとまらない。生まれたときから夢泥棒となることが決まっていたので、他の生き方は知らない。できないといった方がいい。


 だから、「夢の力とはなにか」と自分に問いかけてきた。


 夢魔に限らず、あらゆる魔法の源は呪術からきている。呪術の法則の基本は共感呪術だけだが、それを用いるための意志呪術が土台となっている。すべてが意志で決定されるといっても言い過ぎではない。


 夢泥棒であるわたしは、夢抜きという形ですでに意志呪術が施されている。ゆえに夢を簡単に盗めるのだ。でもそれだけでは夢をうまく盗むことはできない。

 夢泥棒の秘術は、口伝のみで語り継がれてきた。しかし夢泥棒の減少により、語るものも少なく、ほぼ途絶えてしまったといっていい。ならば、わたしはどこで学んだのかといえば、『夢幻盗術口伝律法諸書』という本の中でだ。


 通称、『盗夢法』と呼ばれ、東洋と西洋との魔法集大成時に夢盗みの技術も体系化、一冊の本にまとめた夢魔の必須アイテムをオボロからもらったのだ。つかみがいのある重厚な本のわりに軽く、黒革のハードカバーには本のタイトルらしい文字が刻まれている。その下には一つ、きれいな青い宝石がついている。


 この本は古今東西あらゆる年代、地域、国々にいた方技(wonderworker)と呼ばれる人たちが口伝のみで受け継がれてきた夢泥棒の神技を集め、夢魔導師が編成して作られている。その様式はカバラ文書と同じく、数秘法、省略法、文字置換法が用いられ、どこからも読むことができるがはじめから終わりまで通して一読しても理解できないよう作られている。


 これには教えがこめられていて、「世はすべて螺旋、大きな渦を巻くようにできている」という暗示だ。


 何事にも拡散と凝縮、解放と集中が必要不可欠。生物が内に沈黙して得た力、それを外に出して世界に送る。そして外での経験を内に集めて消化して新たなエネルギーに作り替える。現在から振り返り過去をみたとき、まっすぐ一直線に来たのだからこれから進む未来もまた一直線に進んでいくのではなく、大きな渦の中で、前後左右、縦横無尽、自由自在に進むことができる。すべては自らの意志が決定することなのだ。


 本の中にはアネクドートという夢守がいる。いわゆるガイドだ。彼と意志を重ねることで見る夢――明晰夢のなかで疑似体験をしながら夢泥棒の神技を身につけたのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る