Dream seeker:03「お母さんとはどこで会ったの?」

「お目覚めですかな」


 薄目を開け、きこえた方をみる。

 黒のタキシードに身を包み、シルクハットをかぶる白仮面の男が椅子に腰掛けていた。仮面にあいた二つ穴から、わたしをみている。


「気分はいかがですかな」

「……最低っ。清志のいれてくれたコーヒーが飲みたかったのに」

「ですがそろそろ、アイリッシュが恋しくはありませんか。育児休暇は本日までですよ」


 オボロは相変わらずいけ好かない。とはいえ感謝はしている。

 清志と一緒になってから、ますます夢みるサイクルが早くなったため、こまめに夢を買いに来てくれていたのだから。

 ただ会うたびに、


「それにしても夢見人ごときに、わたくしのカスミをとられるとは」


 きまってわたしにぼやく。

 オボロをみていると、ふっと、ある考えが浮かんだ。

 ひょっとしたら実父は、オボロなのではないか。だとすると、いろんな事がすんなり落ち着く。わたしに名前をつけ、仕事を教えてくれた。ミツキに引きあわせてもくれたし、いつも陰ながら見守ってくれた。ハワードはわたしと血の繋がりがないと気づいたから、オボロから離れて夢コレクターの道へ進んだのだ。

 この推論を、たしかめる勇気はない。

 オボロの性格を考えれば、聞いたところで答えてはくれないだろう。仮にそうだといわれでもしたら、どう受け止めればいいのか。同業者から嫌われている偏屈者が自分の父親なんて認められない。こんなのと同じ血が流れているなんて、想像したくない。自分のために娘を利用しようとしたハワードにくらべたら、幾分ましかもしれないが。


「ミツルの寝顔に似てきましたね、カスミ」

 オボロは寝息をたてている娘の顔をのぞき込んでいる。

「娘のルリ? それともわたし? オボロはどこでお母さんと」


 わたしはおもわずたずねてしまった。

 はぐらかせっ、と念じながらオボロの答えを待つ。


「相変わらずですね、カスミ」オボロはふふんと笑い、「質問は一度にひとつずつですよ」シルクハットのつばをつかんだ。

「お母さんとはどこで会ったの?」

「ミツルは、かつて夢泥棒だったのですよ。ともに仕事をしてましたから、彼女の事をよく知っているのです」

「そうなんだ」


 肩の力が抜け、息を吐いた。

 納得しかけるのと同時に、あのハワードの娘なのかというさびしさがにじむ。清志と一緒になるときでさえ気にならなかったのに、娘が生まれた途端、自分が怖くなった。自分のために、いつかわたしは。娘の夢を奪ってしまうんじゃないのか……。

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