Epilogue:06 夢追人
Dream seeker:01「俺達は後悔したくなかったんです」
「大成功だったよっ」
店を訪ねるなり、清志はカウンターに立つハワードまで駆けよった。しあわせの絶頂というべき笑いを浮かべながら手をとり、握りしめる。
「あ、朝倉様……どうして」
瞬きをくり返すハワードをよそに、はげしく手を振り、
「彼女と生まれてはじめての朝日をみたんだ。そのあと予約しておいた牧師さんのところで無事結婚し、二人で婚姻届を役所に提出した。これからハネムーンに行こうと空港へむかう途中なんだ。あぁ、俺はなんて果報者なんだ。落ち着いたらまた飲みに来るよ。もちろん、そのときは二人でゆっくりさせてもらう」
「いや……差し向けた五十人の手下は……じゃなくて、その……オボロやあの難題は」
ハワードは戸惑いながらきいてきた。
「教えてくれた、あの難題ね」
ふふんと笑いながら、わたしは清志の後ろから顔を出す。
「わたしの隣でねむりながら考えたんだって。『後悔の先にあるものこそ、手にしたいほんとうの夢なんじゃないか』って」
「……まさか、答えを変えたのか」
「そのあと立ちはだかった夢買いをみたとき、オボロもわたしを大切にしているっておもったんだって。そんな相手に『後悔』なんていわせたくなくて、だからギリギリで答えを変えたんだよね」
清志の顔をみれば、うれしげに笑ってうなずく。
「俺達は後悔したくなかったんです」
「オボロは彼を認めてくれた。だから襲ってきた夢コレクターたちから守ってくれて、手にできたの」
飛行機の時間があるから、と清志は一礼して店を出ていく。
わたしは扉の前で立ち止まり、ふり返った。
「ほんとうにわたしの父親なの?」
ハワードはなにも答えなかった。背を向け、わたしから離れようとした。
「待って」カウンターへ戻り、ハワードの腕をつかんだ。「まだ質問に答えてない」
「なにをいまさら」
「わたしは両親についてなにも知らない。いろいろあって驚かされっぱなしだから」
ハワードは笑っただけだった。
わたしの手を振りほどき、離れようとした。
「時間がないのだろ。どこへでも行くがいい」
「わたしは知りたいのっ」
ハワードは深く息を吐き、わたしに向き直った。
「あらゆる夢の捕奪者は、夢泥棒も夢コレクターも、ほとんど男が務めている。男が仕事を支配し、掟を作り、夢魔導師協会の連中でさえ、みんな男だ」
「いままで会った同業者はみんな男だったけど、それがなんなの」
ハワードはためらい、やがて答えた。
「歴史を紐解けば、これまでにも幾度となくヒルは創出されてきた。その核として犠牲となってきた多くが女だ。俺様は先人の智慧を拝借したまで。いまなら大型捕奪者たるヨルの存在が、いかに夢の循環にとって重要なのかがわかってくる。ヨルが失われれば夢使いは消え、夢泥棒が滅ぶ。中間捕奪者である、夢コレクターだらけになるのだ。これが自然の摂理だよ」
「答えになってない。あなたはわたしの父親なの?」
「愚かなオールド・ハッグだ。共有する記憶のない親子など、他人同然。夢泥棒とておなじだろ。捕奪したところで文句をいわれる筋合いはないね」
わたしは奥歯を噛み、激痛をこらえた。
これまで相手の都合なんて考えず、わたしも盗んできた。だからハワードのやり方に文句はいえない。
「飛行機の時間があるのではないのか。シューラルーン、よい旅を」
いい返してやろうと口を開けるも言葉が浮かばず、わたしはハワードをしずかに睨み、店を出た。
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