Beautiful dreamer:22「みつけたんだ」

 おはようと声をかけられ、まぶたをゆっくり開けていく。


「もう……朝になった、の?」

「まだみたいだよ」


 清志は東の空を指さす。

 ぼんやり明るくなってきたものの、太陽の姿はまだない。

 おはようは、聖書の冒頭と同じだ。『はじめに天と地をつくった』と書かれてある。でも『はじめに内と外をつくった』と訳してもいい。天は隠れた外なるものを示し、地は現れた内なるものを表す。内と外が別れ、はじめて意識が生まれる。故に、天は地を包もうとし、地は天に抱きたいと手を伸ばしてしまう。


「ごめんなさい……危険なおもいをさせて」

「それほどでもなかったよ。それに、カスミを知れて俺はうれしい」

「よかった」


 そうつぶやくと、包み込むように抱きしめてくれた。

 水平線から生まれ出る太陽を、夜のあいだにみた夢をすっかり忘れてながめていると、瞳がどんどん潤ってくる。

 何度となく続いてきた朝日は、生まれる何億年前にも昇り、今日を積み重ねてきた。そんな朝日が歪んでみえる。

 悲しみもはげしい怒りすらないのに、涙が止まらない。


「泣くなよ、頼むから……さもないと俺まで泣いてしまう」


 そういった彼は、手のひらを押し当てるように目をこすっていた。


「どうして、あなたも泣くの」

「みつけたんだ」

「なにを?」

「永遠を」


 笑いのように言葉が、彼の口からはじけた。

 知ってほしいからではない、叫びたいのでも歌うためでもなかった。おもいかけずただ一度、とりかえす術もなく、涙の味のする唇を重ねた。

 海と溶けあう太陽が、静かに離れていった。


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