Beautiful dreamer:18「平和とはなんだろう」

 いにしえよりはるか昔、世は混乱の渦中にあった。

 つねに争いを求めて平和を壊し、平和を求めて争いをくり返す。過ちを過ちとせず、傷つけ、妬み、恨み、嘘をつき、悪口をいってののしり、血の涙を流させる。まさに地獄のような世界があった。

 どれほど争いをくり返せば終わるのか。心ある者たちがティル・ナ・ノーグに集まり、毎日のように議論しあった。


 ある詩人が、

「木々が葉を落とす、風もないのに目にみえない誰かが摘み取るらしい。そこにはなにかしらの力が働いている。それと同じように、なにかしらの力が働いているのでは」

 といい出し、そのみえざる力とはなにかを話し合った。


 ある僧侶が、

「みえざる力とは死にゆくのと関係がある。大木にもみられる春から夏にかけ宇宙にむかい輝く力は秋になり逆転し、宇宙から木の根へ入り、大地の中へとむかう、つまり闇の中へともぐり新たな形をそこでつくり、葉に、花に、果実に姿を変えるとその力は消えてしまうのだ」

 といい、その闇の中に入る力とはなにかをまた話し合った。

 科学者も哲学者も宗教家も、芸術家や思想家、政治家まで、心ある偉い人たちが毎晩集っては考えつづけた。

 七日が過ぎたときだった。


 誰かが、

「平和とはなんだろう」

 と、ぼんやりつぶやいた。


 それに対して誰かが、

「自分の夢が大切なら、相手の夢も尊重するって事だよ。そうすれば意見や考え方がちがっても誤解は生まれず争いは起こらないよ」

 と応えた。


 その話を聞いたとき、

「それだっ」

 その場にいたすべての者たちが叫んだという。


 影響を与える力が〈夢〉と気づいた瞬間だった。

 夢は、こんな事ができたらいいな、という気持ちを起こさせ動かす源。自分にとって都合のいい夢をつくり、その夢の実現のために世界を形つくっていく。世界はまさにそうやってできた夢の産物であふれていた。

 議論と研究を深めた結果、夢には生存競争が存在しない状態にあると発見される。激しい生存競争があるほど集団は高度に平均化するが、競争のない状況では名誉欲などとは無関係であり、夢としての形質のバラツキが大きくなり、豊かに満ちていた。

 だがここに、自己の夢だけが自然に実現しようとするとき、つまり生存競争に勝ち残ろうと力が働くと、世界に混乱が生まれるのがわかった。

 時間や場所にかぎらず夢は生まれる。ごはんを食べるときも、遊んでいるときも、寝ているときも。

 たくさんの生物がみるどの夢も、実現する瞬間をひそかに待ちわびている。その中にはもちろん、世界を破滅の渦に巻き込んでしまう恐ろしい夢もある。だが夢は夢なのだから、実現するまでそれがどういう夢なのかは誰にもわからない。もともと夢に善悪の区別などない。善悪を決めるのは、価値を決める罪悪感。夢は夢としてあり続けているにすぎないのだ。

 そのような状況のなかから、世界を破滅させる夢だけを取り出すのは、不可能。かといって、無秩序に夢が増えつづけては、世を乱す夢がいつどこで自然発生してもおかしくない。この脅威を回避するべく心ある者たちは、世界にあふれる夢の数を減らし、混乱の根を断ち切ろうと〈夢泥棒〉をつくる決定がくだされた。


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