Magical dreamer:11「旅と放浪のちがいを知っているか」
オボロと同じ口癖だと気づくと、わたしは笑えなかった。
「おまえのいうとおり。真如の月によっておこなわれる夢語りが、あらゆる生物の幸不幸、羨望や嫉妬をはぐくんでいる。ゆえに、どんなにちっぽけとおもえる願いでさえ使命なのだ。自分の運命を実現するのは、生者唯一の責任。だからおまえがなにかを望むときには宇宙全体が協力し、実現するために助けてくれる。そんな力の前に、夢泥棒や夢買いの邪魔はさほどのものではない」
夢使いは黙り、夜の街を眺めた。
路面をけずって走る車の音がしずまれば、気の抜けたメロディーが鳴り響き、また車が動き出し、どこかへと去っていく。
頭上でおこなわれている〈夢語り〉には、だれも気づいていないようだ。
先に口を開いたのは夢使いだった。
「なぜ夢を盗みたい?」
「盗めば望みがかなえられるから」
「なにを望む?」
「誰かと……旅がしたい」
「旅と放浪のちがいを知っているのか」
「帰る場所があるかどうか、かな」
わたしの答えに夢使いはふり返り、歩道橋下の歩道を歩いている男を指さした。
コートの襟を立てながら背をまるめ、重たげなカバンを肩にかける若者だった。
一瞬、目があう。でも立ち止まる様子もなく足早に去っていった。
「あの夢追い人も、以前は想い人といっしょに遠くへ行きたがっていた。しかし年上だった相手は先に卒業していったため、まず勉強して資格をとり、就職した。やがては事務所をかまえ養えるほど成功したら、想い人といっしょになろうと夢見ている。夢追い人とは、自分の夢がいつでも実行できると気がついていないのだ」
「すぐに追いかけたらよかったのに」
「それも考えた。しかし、愛だけでは生活できないとおもったのだ。結婚すれば相手といっしょにいられる。仕事をしていれば生活の場所をもてるし、財も手にできる。親は無職相手より、仕事をしている相手をえらぶ」
ぎっと心が痛んだ。
年格好の近い夢見人から夢を盗みながら、似た悩みを考えてきた。
その度に、自分は夢見人ではないのだから関係ない、といい聞かせてきたが、想いは消えずに胸の奥にある。
夢使いは続けた。
「結局、自分の運命より他人が『相手のしている仕事をどう思うか』という視線が大切になってしまうのだ」
「……なぜ、そんな話を」
「おまえが運命の岐路にいる、つまり実現しようとしているからだ。しかもそれに気づかず、もう少しであきらめようとしている」
「なにを……」
わたしは息をのむ。
「まさかそれを教えるために、わたしの前にあらわれたんじゃ……」
「いつもこうだとは限らない。だが誰しも、はやい時期に生まれてきた理由を知る。同時に、不幸だと自らを呪ってはやい時期にそれを諦める。坂の上から物が転がるように、なるべくしてそうなっていく。おまえが求めるものは、時の流れの力で姿を現し、おなじ流れによって姿を隠す。おまえが真に求めるものについて知りたければ、おまえの持つ夢の七分の一をよこしなさい」
わたしは言われるまま、手のひらに盗んだ夢玉をのせて差し出した。
夢使いは一つひとつつまみ上げ、よくよくみて調べる。
どの夢も夢でしか叶えられないものばかりだと、わたしは彼女に説明した。
夢使いが手をかざすと、吸い寄せられるように宙へと浮き上がる。
「いい腕をしている」
空へ手をかざすと、つられるようにいくつもの夢玉が一気に舞い上がり、無数の夜風魚がひとつずつくわえて運んでいった。
「夢をもらうといったのは、おまえの決心を助けたかったからだ。おまえが我に会えたのは、引き寄せによる絶対幸運原則のおかげ。会いたいと夢みたところで会えはしない。これは前兆だ」
――前兆。
その言葉に、体が震えた。
「わたしが本当に求めるものってなんですか」
「夢を盗んでいくなかで出会える。我との出会いもそのひとつの現象に過ぎない。もちろん、夢買いや祖父であるミツキとの出会いもひとつの現象だ。これからおまえがやっていくのはたったひとつしかない。それ以外はないということを忘れぬように。そして、前兆の語ることばを逃してはならない。とくに運命には最後まで従うのを忘れずに。なぜならおまえは、フラートの夢をみようとしているのだから」
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