Magical dreamer:09「あれって夢語りですよね」
「落ち着いたようだな」
「はい……世界最大の嘘ってなんですか」
おもい出して夢使いをみた。
「だれもが自分の運命をえらぼうとするが、ある時点で現れる避けられない現象に出会い、あらがえず宿命によって支配されてしまうという、嘘だ」
はたして自分はだまされていないのか。
夢を盗んで集めているのは、神殺しでヨルが消え、夢語りができなくなったからのはず。
だけど、いま目の前に、夢使いとともにヨルがあらわれた。しかも〈夢語り〉が行われているではないか……。
空に浮かぶ光景を指さし、
「あれって夢語りですよね」
わたしは手すりに立つ夢使いにたずねた。
「そうだ。腐敗場から夜風魚で夢をあつめ、自然と調和しながら本来のぞんでいた夢をとりもどさせるための夢語り」
「だったら、盗みあつめてヒルをつくる必要もなくなりますね」
「ならない」
夢使いはきびしく答えた。
「世界の腐敗があまりに進みすぎた。数が減り、弱ったヨルの力では、これ以上語れない」
「そんなっ」
「いまの夢追い人にとって『現在』のみが存在理由なのだ。神話も自然も欠落し、過去も未来もない。では『現在』があるのかといえば、それすらもない。我らの生き方はあたえっぱなしだ。自分の使命、役割を果たすだけで見返りはまったくもとめない。我らは、からっぽになるまであたえつづける夜の住人、というのを忘れてはいけない。ところでおまえは夢をどれだけ持っているのだ」
「え、あ……充分もっています」
夢泥棒の資質を問われているのかもしれない。あわててポンチョの内側から、花見客から盗みとった夢を一握りとり出した。
「それは問題だな」
「え」
「充分もっているのなら、我はおまえを助けられない」
「助けてほしいんじゃなくてっ」
おもわず大きな声が出るも、あわてて口を閉じる。
オボロにこき使われたくないだけで……といい出したら目の前から消え、二度と夢使いに会えなくなる気がした。
「それを我にくれないか」
「全部ですか」
「さすればおまえの『本当に求めるもの』の在処をどう探せばよいか、教えてやろう」
「わたしが本当に求めているもの……」
両手にのる夢玉に目を落とす。
もしかすると……夢使いは夢をほしがっているのかもしれない。
老バーマンのミツキからきいた話だと、夢使いも、ヨルと同じく夢見人の神殺しにあい、世界から追い出されてしまったはず、なのに、いま目の前にこうして存在している。
夢見人へ神罰をくだそうと、力を取りもどしたくてわたしから夢を求めているのだろうか。だとすると、ヨルがしているのは夢語りではなく、夢見人の世界からすべての夢を集めて奪いとろうとしているのではないだろうか。そうなったら、夢見人と生きるわたしたちはどうなるの……。
わかっているのは、問いかけにどうこたえるかで世界が一変するかもしれない、という不安だけだった。
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