Magical dreamer:06「どんな方法か教えて」

「ヒルができたら、どうなるの?」

「ヨルが執り行ってきた夢語りを代行するから、いま以上に質のいい、豊潤な夢がうまれるようになる。そうなれば、ちまちまとした小さい夢を盗みあつめなくても、大きな夢をひとつ手にするだけで一生遊んで暮らせるようになるだろうってはなしだ。だから、自分たちでヒルをつくっちまえばいいんだとさ」

「どれだけあつめたらできるの、ヒルって」


 この問いに、ミツキは首をひねった。


「幾万の夜に幾億の夢をかき集めても足らない、といわれている」

「……だったら」


 ひらめいた。


「生き残っている夢使いをさがせばいい。そしたら」

 オボロにこきつかわれずに夢を盗めるじゃないかっ。

 わたしの心は躍った。

「たしかに、ヨルの従者である彼らなら、なんとかできるかもしれない。だがな、どこにいるやら、わしにもわからん。噂では、彼らと会うには特別な方法があるらしいが……」

「どんな方法か教えて」

 身を乗り出すと、

「あかん」

 即答で拒まれる。

「ケチっ」

「そうはいっても、わしのきいた方法が正しいかわからんぞ」

「正しいかもしれないでしょ」


 わたしは、まっすぐミツキの目をみた。


「あー、やっぱりだめだ」

 またもや即答。

「どうして~」


 わたしは足をばたつかせてカウンターの壁を蹴る。

 店で暴れないでくれとミツキにいわれても、しつこくつづけた。


「わかったわかった、話だけだぞ」

「うんっ」

「わしに教えたやつは、『その方法は自分でみつけなければ夢使いに会えなくなる。それでもいいというなら教える』といっていた。会いたかったが、わしはそやつに方法をきいてしまった。それを話してもいいのだが……いってしまうとカスミまで会えなくなるかもしれない。そうなったらいやだろ。だから自力でみつけなさい」


 夢泥棒とはなにか、わたし自身わからなくなってきていた。

 自由に夢を盗んでも、盗みすぎれば自分がみる夢のせいで盗めなくなり、やがてはオボロに買い取ってもらわなければならなくなる。いやらしい小言付きで。

 望みながら追いかける夢見人とちがって、夢泥棒は夢をみない、みれない、夢をみてもすべて買い取られて残らない。


 おまけに同業者がいるのに、わたしはいつも〈独り〉だった。

 一人は楽なのだけれど、小言をいってくるオボロと愚痴をきいてくれるミツキとだけ顔をあわせていると、ため息ばかりつく自分に気付く。

 きっと、どの夢泥棒も単独行動をしているのだ。

 でなければ〈女夢泥棒〉というだけで、のけ者にされているにちがいない。

 もしそうだったら連中全員、「最低」だ。


 いっそ辞めてしまおうか……。


 ふてくされて部屋に閉じこもってみるも、うずきが抑えられず、盗みに出てしまう。夢泥棒の本能には勝てない。なにより辞めたら、オールド・ハッグとさげすまれてしまう。それだけは嫌だ。

 かといって、このままオボロにこき使われつづけるのもたのしくない。

 夢使いが存在するというなら、夢の王復活をお願いし、オボロから解放してほしい。それくらいの願い、夢使いなら簡単にちがいない。そうだそうだ、そうにちがいない。


 そんな淡い期待から、夢を盗む片手間に探しはじめた。

 とはいえ、当てもなければみつける方法さえわからないんじゃ探しようがない。

 だれかヒントを、どこかでみたという情報を教えてほしい。

 同業者をみかけるたびに尋ねても、「知らない」としか返ってこなかった。

 ひょっとすると夢使いの存在自体、どこかの夢見人がみた夢かもしれない。自分は特殊能力がつかえるんだ、と妄想にふける子供がついた嘘なのでは……。

 いつしか、そんな考えを抱くようになっていった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る