Magical dreamer:05「ヨルのかわりを作るためさ」

 歳月が過ぎても、オボロの目にかなう夢を盗めずにいた。


 電車内では、鬱憤をこめて携帯情報端末をいじるサラリーマン、たっぷりのにんにくがつかわれた唐揚げをたべる学生、鏡を覗き込みながらアイメイクにはげむ女子高生からも夢を盗みとっていく。


 デパートでは、値引きされた衣類へ群がる女性客、地下フロアの食料販売店でショーケースのケーキからどれを買うか迷う男性客、新店舗の集客に顔色をかえる従業員からも夢を奪っていった。


 それでもオボロは「もっと質のよい夢を」といって焦らせる。

 数だけいえば、ひと月に盗みとる夢は数千を超えたというのに。

 それだけの数のうち、オボロの目にとまる夢は百にも満たない。


「あんなに集めて、なにするんだか……」


 仕事後かならず、〈宇宿辺ウシュクベ〉に顔を出し、わたしはいらだちを吐いた。

 むしろこの店には、仕事を終えた者でなければ入店できない仕掛けがほどこされている気がする。


 カウンターで一人、うなだれていると、

「ヨルのかわりを作るためさ」

 ミツキは、やさしい声で語ってくれた。

「ヨルっていうのは、数多の生命が夢みた『生きたい』という想念から生まれた夢の王。夢見人のいう神様みたいな存在だよ。夢の王は満月の夜、風を魚にかえ、生物がみる夢をあつめさせて練りあげる。『真如の月』とよばれる大きな夢玉の輝きこそ、それぞれの夢語り、夜の子守唄さ。世界を照らし、その夢語りに包まれて眠るから、いつかみた夢がほんとうへとすこしだけ、近づく。そんなヨルの手助けをしていた連中を『夢使い』というんだ」

「なにそれ」


 はじめて耳にする名前だ。


「彼らは、真如より来たり真如へと去るもの。自然と調和し、生命をはぐくむ大切さを知る。またの名を、真摯な道化師」

「道化って」

「道を踏み外した外道を、もとの道にもどすって意味さ。世界の夢をめぐらせてくれていたが、夢がかなって科学文明を発達させた夢見人は、つぎつぎに古い仕組みを壊していった。これを夢見人の神殺しといい、夢の王も例外なく追いやられてしまったのさ。ヨルと共に夢使いも消え。まだどこかに潜んでいる、そんな噂もきくが……実際にみかけたやつはいないな」


 ミツキは声をひそめ、


「そこでヨルの代用に、夢魔導協会の連中がヒルをつくろうとしている。これが……なかなかむずかしい。錬金術師がやっきになって賢者の石を作り出そうとしてできなかったように」

「夢魔導師協会……オボロは協会の一員なのね」

「末席にくわえてもらっているそうな」


 それをきいてわたしは、重く息をはいた。


「ヒルをつくるために、盗んだ夢を買いしめてたんだ……オボロは」


 買いあつめる夢をどうつかおうと、文句をいう筋合いではない。

 わたしは、夢見人から盗めればそれでいいのだから。

 ……とはいえ、気になる。

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