Magical dreamer:02「んー、うまー。なにこれ」

 皿にはまるめられた七つの食べ物が載っていた。夢玉のひと粒よりも倍以上もおおきい。


「おまえのために、わしが特別にあしらえた、テマリスーシーだ。左からタイ、ヒラメ、サワラ、スズキ、カンパチ、シマアジ、ブリの切り身を酢飯に乗せてまるくしたのさ。これにつけて食べるんだ」


 細長く巻かれたおしぼりとともに出てきた小皿には、すきとおった琥珀色の液体が照明を浴びて、まぶしく輝いていた。


「真っ白に光るきれいな白身の肌を、真っ黒な醤油でよごすわけにいかんからな」


 いわれるまま、つまんではつけて口へ放り込む。

 噛んだ瞬間、口の中でご飯がやさしくくずれる。どこかさっぱりとした風味と、ほんのりとした甘さが広がった。


「んー、うまー。なにこれ」

「煎り酒さ」

 どこか照れた口調で、老店主が教えてくれた。

「煎り酒って」

「米を発酵させてつくった酒に梅干しとカツオ節をいれ、煮詰めて越し、焼塩をくわえて塩味をととのえた調味料さ」

 食べすすめていくと、おもわず笑みがもれてしまう。

「ここって、食べ物屋なの?」

「酒場さ」


 ふうん、とうなづきついでに、まわりへ目をむける。

 と……。

 ぎろり、みられている視線に気づいた。


 自分をみる目の色が気にいらない。

 その視線は一人だけでなく、あちらこちら、かわるがわるむけられてはまぶたの中へ押し込めて細く細く、ひとのよさそうな笑顔に埋没していった。

 ひょっとしたら、このスーシーを食べたいのかも。

 口に放り込んではおしぼりで手をふき、皿を抱え込みながら顔がかくれるまでフードを深くかぶった。

 そんな仕草が気になったのか、


「彼らは同業だが、だれも横取りしないさ」

 老店主がささやいてきた。

「同業……じゃあ、ここにいる彼らも夢泥棒」


 そういえば、と脳裏に、なにげなくオボロが口走ったことばが浮かんできた。

『いまや夢泥棒の数は、世界に散らばるフェルメールの絵画枚数ほどに減った』

 つまり……。

 さほど広くない室内を見渡した。

 ざっと二十数人の男たちがいる。


「もう、これだけしか夢泥棒は……いないんだ」

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