Episode:02 夢使い

Magical dreamer:01「こっちに座りなさい」

 暗く、細長い階段を下っていく。傾斜はきつく、目が慣れてきても先がよくみえない。ひんやりするコンクリート壁に手をつけつつ進むも、きしむ音がするたびに足が止まってしまう。


 螺旋構造になっているのでもなければ、途中踊り場があるわけでもない。ここの建物はどういう造りになっているのだろう。

 あとでオボロにきいてみるかと調子よく下るうち、

「わっ」

 膝からからだが崩れ、つまずくように転びかけた。


 ……階下についたのか。


 息を吐き、軽くひねった足首の痛みをよろけながらたしかめていると、目の前に光が漏れ出るすき間をみつけた。

 感触からして、木板に鉄鋲を規則的にならび打たれた扉だった。

 それに奥から声がする。

 二人や三人、といった人数ではなさそう。

 ほかに進みようがないか手探りでたしかめてから、ずっしり手応えのある重厚な扉をひき、足を踏み入れる。


 間口はひろくない。

 天井は高く、ふしぎな広がりを感じさせる。

 暗すぎない程度に抑えられた照明と、直線的な木製カウンターの後ろに、四人がけと八人がけのテーブル席があり、ほぼ埋まっていた。重たげな黒いフードをかぶる男たちがグラス片手に、さわがしく飲んでは陽気に話している。

 ただ、オボロの姿はなかった。


「あいつは、急用が入って出ていったよ」


 整然とならぶボトルを背に、白髪の目立つ初老の男が声をかけてきた。

 長身で肩幅が広く、目鼻立ちがととのった顔。生きた歳月を刻んで目尻や口元、あごのあたりにシワやくすみがみられる。室内で彼だけが他とはちがう、白いシャツに黒のベスト、首元には褐色の蝶ネクタイという服装をしていた。


「こっちに座りなさい」


 手招きされるままカウンター席に座ると、彼はわたしの目の前に横長の白い皿を置いた。

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