Dream purchaser:05「……くだらない」

「結構。その前に教えてください。きみは本当に夢泥棒ですか」

「はあ?」

「ほんとうはオールド・ハッグなのでは」

「はうっ……、バカにしてる……ちがう、わたしはっ」


 全身を駆け巡る痛みに耐えながら、オボロをにらみつけるので精一杯だった。


「世界にどれだけ同業者がいるのかご存知でしょうか。いや、答えなくて結構。きみが知っているはずもありませんから」


 オボロはわたしの様子に気を配りながら、勝手に語りだす。


「かつてはどこの国にもたくさんおりました。ですがその数は年々少なくなり、現役で活躍している者は、世界中に散らばるフェルメールの絵の数ほどしか存在していません。これはおどろくべき数字です。どんな生態も存続と増殖、文化を伝える事こそ、アイデンティティーといってもよい。ですが夢泥棒はアイデンティティーを持っていないのです。夢を盗むことしかしらない。そのためなら家族を大事にしない、あなたにもそのおぼえがあるでしょ」


「……くだらない」


「父のやさしさと母の愛、家族のあたたかな温もりも奪われ、相手のくるしみを分かち合わず、ただ夢を奪うだけを強要されてきた。願いはすべて奪われ、かすかな希望さえ微塵に砕かれなければ夢泥棒にはなれませんからね。冷たく暗い独房のような部屋に押し込まれた月日から学んだのは、相手の夢を盗む術だけ。ちがいますか」


 体が一瞬、ふるえた。

 なぜ、この男は知っているのか……。

 なにもない暗闇の部屋で過ごした時間がよみがえってくる。

 望むものはすべて奪われ、壊され、消えていった。挙句の果てに、光すら届かず、匂いや音さえ断たれた場所に放り込まれたのだ。

 闇に果てがないように、自分という感覚が際限なくひろがり、わからなくなる恐怖だけが傍らにあった日々。生きているのか死んでるのかもわからない……。そんな気持ちに同化するまでずっと……。


「どうして?」

「どうして、とは?」


 オボロが聞き返してくる。

 あきらかにわざとなのは見え見えなのに、迂闊にも言い返してしまう。


「どうして、わたしのことを知ってるのっ」

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