Dream purchaser:04「まず、聞く。それから……決める」

「夢泥棒とはいえ、夢買いのわたくしが所持する夢を奪うなどできません。それにあなたと同じく、わたくしも自分の夢をもちませんから」

「ゆ、夢買い? なにが目的っ、ど、どうして、わたしの前に」


 呼吸のたび、打ったところの痛みがどんどん増してくる。早く逃げたほうがいいのがわかっているのに動けなかった。 


「質問は一度にひとつだけ、といいたいのですが、わたくしは寛大なのでよしとしましょう。先ほど、あなたがわたくしにした無礼も許してあげます。わたくしとあなたは近い関係ですからね」

「近い?」


 男の言葉をくり返し、質した。


「そうです。わたくしの心は闇よりも深く広いので、許してさしあげますよ。我が名はオボロ、夢買いのオボロと申します。見てのとおり、きみとおなじ、夢見人の目をはばかる身です。わざわざ会いに来たのは、きみに聞いてほしい話があるからです。むろん、悪い話ではありません。きかない自由もありますけれど、きみにとって損はないのはたしかです。聞いてから決めてください。聞くだけ損はないですからね。きみはわたくしを知ろうとしている。コイツは何者だ、と疑っている。うん、だから話してあげよう」


 オボロと名乗る男からは、嫌な感じしかしない。

 冷ややかで自分勝手。

 世界すべてをあざ笑うような口調。

 相手の望みばかりいう下心のある者は、〈騙しの第一歩〉として、信頼関係を誇張してくる。つまり、自分で「信用できないですよ」と語っているのとおなじ。好きじゃない。

「調子のいい話だね。なにからなにまで信じられない」

 怒りにまかせて声を上げると、少しだけ痛みが治まった気がして余裕ができた。呼吸を整え、ゆっくり立ち上がると、手が届きそうな位置でオボロが立ち止まった。少しでも離れようと、じりじりと後ろに下がる。逃げ出したいけど、膝に力が入らず震えて走れそうになかった。


「信じる信じないはきみの勝手ですよ。ならばもう一度争ってみますか? 今度はわたくしも本気で相手をさせていただきます。痛い目をみるのはあきらかにきみ。しかも今度はケガではすみません。やる前からわかりきっている、と、きみ自身も感じているんじゃありませんか。きみの攻撃はわたくしには通じない。それでもよければよろこんで、お相手しますが」 


 能力差がありすぎる。

 悟ったのではなく、これは事実。

 あるがままの事実を受け止めるところからしか、先へ進めない。

 わたしは覚悟し、ちいさく息を吐いた。


「まず、聞く。それから……決める」

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