Episode:01 夢買い

Dream purchaser:01「オールド……ハッグ」

 穴を突いて指をまわせば、素直に開く音がする。

 ツーロックがカードやバイオメトリクスだとしても、問題ない。注意すべきは、住人が寝ているかどうか。余計な労力は仕事の妨げになるのだけれど、念のために家全体に術をかけておく必要がある。

 マイケル・ファラデーの発見以後、深い闇は絶滅したかとおもいきや、静まりかえった屋内は意外と暗い。とはいえ、夜目がきくわたしには問題なかった。


 暗がりの廊下を足音も立てず進み、曲がりくねった階段をあがる。右手に窓がひとつ、左手に各部屋へ通じる細い廊下がある。

 扉をわずかに開けてのぞけば、お目当ての子供部屋だ。はやる気持ちをおさえつつ、ゆっくりベッドへと近づき……おもわず舌打ちした。

 たしかに子供かもしれないが、年ごろが過ぎている。

 笑うとえくぼがかわいく愛らしかったであろう少年も、頭身とともに手足の長さもかわり、いまでは童顔に幼さを残すのみ。さらっとした髪に無防備の寝顔がイケている。


 ――とくん、と胸が高鳴った。


 見とれながら息を吐く。うっすら目が開いている気がして、手をかざしてまぶたを下ろさせた。

 あどけない子供から盗むつもりだったが、当てが外れた。少子化のせいか、子供にめぐりあう機会が少ない。引き返すか悩むも、忍び込んでおいて手ぶらでは帰りたくなかった。それに動きは封じてある。相手は寝返りひとつできないはずだ。


「みられるわけにはいかないから」


 念のためフードを深くかぶり直す。

 ベッドへ上がり、彼に馬乗りをする。やはり動く気配はない。腕をあげさせ押さえておく。これでよし。ゆっくり彼の胸の奥へと、腕を潜り込ませる。

 指先にふれたものをつまむと、一気に引き出す。

 そのときだ。


「オールド……ハッグ」


 おもわず身をよじった。

 相手はかすれた弱々しい声を、絞り出したのだ。

 しかも目が開いていく。

 術が解けかけている? 

 長居し過ぎたか。

 振り返らず部屋を飛び出した。

 

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