第11話 『タリンとシェイド』
タリンの案内は簡潔的で分かりやすかった。一番賑わっている通りは道沿いに向かい合わせで店が並び、そこかしこからオススメされていく。果物をたくさん置いてある所もあったが中身が不安なため買おうとは思えなかった。
「インベントリはありますね」
「あるけど」
「中へ入れれば時間経過も止まるのでまとめて買い込んでも問題はありません。あちらは肉や魚、あちらは野菜、奥の店は調味料などの取り扱いがあります」
「なぁ」
「甘い物も必要でしたら此処ではなく隣の通りへ行けばいくつかご案内できますよ」
「タリンはなんで俺を見てどもるんだ?」
「なっ!?あ、あなたデリカシーがないんですか?!」
「人の事を見てそういう態度になる奴には言われたくなかったかな」
店を見て気になった物を買いながら聞いてみる。本来ならば今日限りで終わる関係だ。気にせずにスルーしておけばいい。だがタリンはずっとどもっているわけじゃない。しっかりと案内をしてくれるし、バーンの店でも堂々としていた。今も歩く度にタリンに挨拶をする街の人々がいる。
言いにくそうだが、俺自身の何かが気に入らないのであれば今後のために聞いておこうと思ったのだ。行く先々でタリンのような態度を取られてしまうとそれが障害になる可能性もある。
するとタリンは賑わう道から逸れて裏路地のような細い道に入っていった。
「…別の世界から来た貴方には分からないでしょうが…僕には死霊を見る事が出来ます」
突然、幽霊が見えるんです。と宣言されても「あー、信じるよ。居るもんね、幽霊」くらいにしか返した事が無い。馬鹿にするつもりはないし、実際に居ると信じているくらいだ。見たことはないが…この世界であればアンデッド系のモンスターやリッチなどの死霊系も居そうだし不思議な事でもないだろう。
「それで?」
「怨念のこもったゴーストなどは討伐対象であり誰でも見えるでしょう。しかし僕が見えるのはシェイド…この世とは反対の世界で生きる影の魂です」
「???」
「誰もが持っている未来の死。シェイドは皆に付いて回る。僕の一族はそれを見ることで死期を悟り、それを生業ともしていました」
「つまり?俺の…シェイド?とやらは」
「ずっと手招きしてくるんですよ!僕を手招きしながら……見えるんだろ?とでも言っているようにずっと……」
またこちらを見て、怯えるように喉をひゅ、と鳴らすタリン。
「影の魂…シェイド、な。初めて聞いたわ。それがどうなったらその人の死期がわかるんだ?」
「生まれたばかりの赤子には老人の姿で取り憑いてます。段々成長するにつれてシェイドは若返っていく。シェイドが赤子になれば老人になったその人は息を引き取ります。若くして亡くなる方の場合、シェイドが若返るスピードがかなり速い」
「俺のは?」
「……」
この世界に召喚された俺はとっくに死期を迎えているはずだ。俺に取り憑いているのは子供の姿か、赤子なのか…。タリンはこちらを見ないようにして言った。
「…腐敗した成人…です」
「うわ、」
「見たことがありませんし聞いた事もありません。見れる者に手招きをするシェイドだって、居なかったはずだ…!なのにアンタ…何者なんだ?本当に生きているのか?」
「まぁ…なるほど。ありがと、話してくれて」
「は?!ちょ、ひぃいっ」
裏路地を引き返した俺をまともに見てしまったのか悲鳴を上げるタリンを置いて先に賑わう道に戻る。顔を隠しながら出てきたタリンに「もう少し買っとこうと思って」と笑うがタリンは気まずそうに俯いて返事をしてくれなかった。
前を歩くタリンを抜かさないようにする。こうして街を歩いているだけでタリンにはシェイドとやらが見えているのだろう。老人や子供、赤子という表現をしたから人の形で。ただ、俺には腐敗した成人。老人でもなく成人という事はそこそこに死期が近そうだが…腐敗しているという点が気になる。タリンが知っていればあの場で答えてくれただろうし、分からないからこその態度、と分かれば仕方が無い。
甘い物を買ってみると、店員がタリンに「誰よこの人!紹介しなさいよ!」と絡むが塩対応をするタリンのおかげで時間を無駄にはしなかった。
「大変おモテになるようで」
「結構人気あったんだよ、周りでは。ほら、身長高いだけで格好よく見えるマジック」
「あーそーですか」
「はは、タリンはタリンで可愛がられそうだけどな」
「余計なお世話です!」
所謂可愛い顔をしている男、は俺の世界では人気があるよ。と言ってもタリンは何の反応もせずに歩いて行く。食料もそこそこ集まったし、服を見て回るが中々決まらない。手頃なティーシャツやジーパンがあれば楽なのに、とそっと溜め息を吐きながらタリンについていく。
「選り好みせずにさっさと決めてくれませんかね?!」
「だって足の丈合わねぇじゃん」
「七分丈ファッションとでも思えばいいんですよ!」
「流石にそれはどうかね。俺も一応年頃だし…あ、あそこは?」
「あそこで!最後ですから」
まぁ結構回ったし。今度こそ何着か買っておこうと決心する。
店に入ると他に客は居なかった。
「ノーズベルト!ドドゥー様の御客様です!」
「お~、タリンか?あ、どうもいらっしゃい」
ひょろ、とした男が挨拶をしてくる。並んだ服を見ながら店内を歩き、無難なシャツとジーンズ生地に似たパンツを選んだ。
「これで満足か?」
「僕が満足してどうするんですか。貴方の買い物でしょう」
「はは、確かに」
「ノーズベルト、支払いはドドゥー様がします」
「はいよ。で?アンタ見ない顔だな。ドドゥーさんの客って事は冒険者?それとも…まさか貴族?」
「彼は新人冒険者です。要らぬ詮索はなさらぬように」
「いつもに増してピリピリじゃん。服なら奥にもあるけど見てくか?靴も…あ、冒険者ならバーンさんの所でブーツを作ってもらった方がいいか」
ノーズベルトはヘラヘラ笑いながら俺が選んだ服を畳んでいく。はい、と渡されてそのままインベントリにしまうと、タリンは「既に受注済みですから」と言って店を出た。
「いつもあんななの?」
「お偉いさんの前ではオドオドして可愛いよ。そうじゃないとツンとしてっけど」
「ノーズベルト!」
「お客さんとコミュニケーションは接客業の一環なんだよ~」
これ以上聞いたらタリンが爆発しそうだったのでノーズベルトに軽く手を振って店を出た。服も買えたし、後はバーンの店へ戻るくらいか。そんなに時間は経っていないのか空は明るいままだ。朝から出てきたが昼くらいだろう。
「飯はどうする?」
「貴方の後ろに居るシェイドとは一緒に食べれそうにありません」
「そんなに酷い見た目してんの?」
「皮膚が溶けたように垂れて眼球も落ちそうですよ…ひ、もう、なんでそんなにニタニタ笑うんですかっ」
「俺…笑ってないけど」
「その後ろがだよっ!」
泣きそうなタリンに申し訳なくなってきた。俺のせいじゃないけど。しかし今からバーンの所へ戻ってもまだ出来ていないだろう、とタリンに言われて昼食を摂ることにする。席を別々にすれば問題はないそうだ。ちなみにセレーネは大人しく着いてきている。人混みが初めてなのかキョロキョロとしていて可愛い。店には入らずお座りをして待っている姿も可愛い。
ただご飯、となると出来れば一緒に入りたい。タリンが案内してくれた店は魔獣同伴可能な場所だった。
既に入っている客が連れているのは見たまんま犬や猫。他には魔獣だろうか、角が生えた兎やリボンを付けたネズミのような生き物、可愛いが見たことの無い大きめの鳥。
「この国でのペットの基準は家族になること。勿論冒険者として魔獣や魔物と契約を結ぶこともありますが」
「俺とセレーネは家族だな」
「わふ、」
「食べ終えたら外で合流しましょう。店の前では邪魔になるので、あそこの噴水の前で」
「わかった」
店から出て真っ直ぐの所にある噴水。ここがドゥーロの中心のようだ。東へ進めばギルドがあり、西へ進めば橋がある。買い物が済めばこの街から出て行った方が良いだろう。
この世界に来てから何日だろう。二日は確実に経過しているが、山から森へ移った時にどのくらい気絶していたか分からない。今分かるのは最短で二日だ。この時間でゼノンダラス国の兵がどこまで移動できるのか…
タリンとは別のテーブルに案内してもらい、昼食を選ぶ。セレーネは肉で良いだろう、と牛っぽい絵が描いてあるページの物を一つ選んだ。更に自分用にトーストっぽいのを頼むと店員の顔が引き攣る。
暫く待って持ってこられたのは5人前の肉の塊と巨大なパフェ。店員は俺から目を逸らすとさっさと他の店員の元へ行きコソコソしながらこちらを見ている。
「…セレーネ、甘いのも好き?」
「わふ…」
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