第10話

「やっぱりおかしいわよね……さっきのやつだって、最小火力なら、爪くらいの炎しか出ないはずなのに」


 私はこっそりと街から外に出て、人気のないところを選んで魔道具の実験をしていた。

 たまたま作ったやつの調整がおかしかったのかもしれないと、念の為別の送風の魔道具も作って試してみたのだけれど。


「そよ風っていう生易しいものじゃないものね。これで最大出力にしたら持ってる方も吹っ飛んじゃうんじゃない?」


 そんなことを一人呟きながら、私は考え込む。

 火炎の魔道具の方も、ここに来る前に再調整してあるのに、結果は変わらない。


 となると千年という時間の経過が、何か大きな違いをもたらしたのかもしれない。

 私はうんうん唸りながら、地面に置いた二つの魔道具を見つめていた。


「あ! そういえば!! 前の時代とは違って、今はそこら中に魔素が満ちてるかもしれないって話よね。もしかしたらそれが原因かも!!」


 魔素は魔道具を使う際の動力なのだから、それが増えれば必然的に出力が増える。

 前に魔素に満ちたダンジョン内では、魔道具の扱いに慣れが必要と聞いたことがあるけれど、これが原因だったのかもしれない。


「それにしても、ダンジョン内ですら、こんな出力の違いはなかったはずよ。あったらもっと話題になってたはずだし……」


 ということは、千年前のダンジョン内の魔素よりも、もっと多くの魔素が地上に満ち溢れているということだろうか。

 気になって、私はそこら辺の石をいくつか拾ってみた。


「嘘でしょ……こんなところで魔石が拾えるなんて……しかもかなりの質」


 拾ったうちの一つが、驚くことに魔石だった。

 魔道具創りに欠かせない魔石を、見間違うわけがないという自信もある。


「つまり、なぜか分からないけれど、この時代が魔素が溢れてて、魔道具創りには天国みたいだけど、悲しいかな肝心の魔道具師がいないってことなのね……」


 なんて呟いてたら、向こうから何か近づいて来る音が聞こえた。

 どうやら人ではないようだ。


「そういえば、魔素が濃いってことは、魔獣もそれだけいるってことよね……ちょっと、街の外に一人で出るのは迂闊だったかしら……」


 私は慌てて地面に置いてあった魔道具を両脇に抱えると、逃げ出そうと体を捻った。

 だけど、すでに遅かったようで、音を立てながら近づいて来たものは目の前まで辿りついてしまっていた。

 すぐ後から荒い吐息が聞こえてくる。


 私は恐る恐る振り向くと、そこには狼のような姿をした魔獣が三匹。

 身体の背中の辺りには鋭い無数の棘が尾にかけて生えている。


 どう考えても走って逃げて、逃げ切れる相手ではなさそうだ。

 すぐに追いつかれ、後ろから襲われるのが関の山だろう。


「どうしよう! そうだ! 最小火力であれなら、もっと出力を上げれば!!」


 私は火炎の魔道具を三匹のうちの一匹に向けて、作動させる。

 真っ直ぐに伸びた巨大な炎の柱は、狙い通りに魔獣を飲み込み、燃やし尽くした。


「うげぇ……夢に見そう……なんて言ってる場合じゃないわね。次!」


 もう一匹に狙いを定めてもう一度魔道具を作動させる。

 先ほどと同じように炎が魔獣を消し炭と化した。


「いける! なるほど! この時代に魔道具がアーティファクトって呼ばれる意味が少しだけ分かった気がする! 最後!!」


 他の二匹が一瞬でやられても、魔獣は怯むことなく唸り声を上げてこちらにいまでにも飛びかかりそうな低い姿勢を保っている。

 その魔獣に向けて、三度目の作動をした。


「あれ!? まさか、もう魔素切れ!?」


 作動させてみたものの、魔道具は全く動く気配を見せない。

 適当に入れた魔石の質が悪かったのか、それとも、こんなに強い出力で使ったせいか。


 いずれにしろ、何が原因かなんて考えている場合じゃない。

 魔石を入れ替えればまた使えるだろうけれど、替え終わるの魔獣が待ってくれるとは思えない。

 もう一つの送風の魔道具は、高出力で作動させたら反動でこっちも飛んでしまいそうだし……


「ぐるるる……」


 私が倒す術を失ったのを気付いたのか、魔獣は低い唸り声を上げて身体をさらに沈めた。

 次の瞬間、恐ろしいほどの速さでこちらへ駆け寄ってくる。


「きゃああああ!!」


 私は逃げようとして体制を崩し、後ろ向きに地面に倒れてしまう。

 目の前には、跳躍した魔獣がまさに私の身体にのしかかろうとしているのが見えた。


 私は咄嗟に送風の魔道具を魔獣に向かって作動させる。

 もう、私も一緒に飛ばされるなんて構っている余裕はなかった。


「くううぅぅぅ……」


 幸運にも背中に地面があるおかげで、吹き飛ばされるということからは免れた。

 ただし、すごい圧力で身体が地面に向かって押し付けられる。


 一方の魔獣は、強風に煽られ空高くへと舞い上がっていた。

 ほとんど豆粒のような高さまで上がった後、私は魔道具の作動を止める。


「わ、わ、わ。ここから離れないと!」


 私は慌ててできるだけ離れ、空を見上げた。

 風を切る音と共に落ちてきた魔獣は、凄まじい勢いで地面とぶつかり、クレーターを作り息たえた。

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千年の眠りから覚めた天才魔道具師は創りたい〜冬眠装置に誤って入った私が目覚めたのは、一度文明が滅びた後の未来でした。アーティファクト?いえ、これは一般家庭にもある魔道具です〜 黄舞@9/5新作発売 @koubu

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