第9話
「なんだ⁉︎ 大丈夫か⁉︎」
私の叫び声が聞こえたのか、部屋の扉が勢いよく開き、クレイが声をかけてきた。
クレイたちは隣の部屋を借りていて、大きな音を出せば聞こえてしまう。
おそらく心配して駆けつけてきてくれたのだろう。
だけど……
「大丈夫か⁉︎ じゃないわよ! 前に言ったでしょ! 勝手に開けるなって‼︎」
「あ、いや……鍵かかってなかったし、それに倒れて返事できない状態だったら、それだとどうしようもないだろ?」
以前、私が着替えているときに、誤って裾を踏んづけたまま服を引っ張ってしまい、盛大に転んでしまったことがある。
その時もクレイが駆けつけてきてくれたんだけど、あの時のことは今でも忘れない。
「前だって、勝手に心配して覗いた挙句、勝手に怒ってたじゃない! 別に私悪くないもん! ちょっと、転んじゃっただけじゃない!」
「ばっ! 馬鹿言うな! アレは……その……あんな格好してるなんて思わなくてだな……」
何故か顔を真っ赤にしている。
クレイって本当に怒りっぽい。
栄養が足りてないんじゃないだろうか?
とにかく、お節介を焼かれるのはいいとして、それで怒られちゃたまったもんじゃない。
「ちょっとびっくりしちゃっただけで、何もないから! さぁさぁ。出てってよ!」
「お、おう……問題ないならいいんだ。邪魔したな……あれ? 何だそれ? ……もしかして⁉︎」
しまった!
まさかここにクレイが来るなんて思っていなかったから、今創ったばかりの魔道具を忘れてた……
「あ、いや……これは、その……あはははは……」
「それって
「何だっていいじゃない‼︎ 秘密よ秘密! さぁ! 出てってば‼︎ じゃないと、ベアードさん呼ぶよ!」
「あ、ああ……」
私はクレイの背中を押し、無理やり部屋の外へと出した。
だけど、おそらく全くごまかせていないだろう。
「彼が話に出てきたクレイだね? エマが魔道具を持っていることを他の二人に言うのは間違いないだろうね。ワタシのことは流石に気付いてないみたいだったけど」
「どうしよう。ラシャ。鍵をかけなかった私が悪いんだけど」
「まぁ、女性の部屋にノックもせずにいきなり入るような男も大概だけどね。それに。さっきの話だと、彼は着替え中のエマの覗きまでしているようだし」
「覗きって! 私の着替えを除いたって何の得にもならないでしょ? そんなことより、どうしようかなぁ……嘘付くの得意じゃないし……」
『全く……我が主人は、自分の魅力に一切無頓着なんだから……』
悩んでいる私の横で、ラシャが何かを呟いたようだけれど、上手く聞き取れなかった。
きっとまた私の悪口でも言っていたのだろう。
「うーん。流石にすぐは無理! 言うにしたって、何をどういうかを考えてから話さないと! と言うことで、私から三人に話すのは、もう少し待ってから‼︎」
「そうやって嫌なことを後回しにするから、どんどん大変になっていくんだよ……って何回も言ってるはずなんだけどね」
「う……でも! 無理なものは無理! それとも、ラシャが私の代わりにみんなに説明してくれる?」
「ワタシが出たら、ややこしいことが更にややこしくなると思うよ。少なくとも、ゴーレムは他にいるだろうけど、ワタシみたいなのは他にいるわけないんだから、みんなの前では普通の猫のマネでもしておくよ」
うーん、頼りにしようとしてたラシャにこう言われてしまったら、やっぱり自分で説明しないといけないかぁ。
魔道具の機構とか性能とかならスラスラ話せるのに、それ以外の説明って苦手なんだよなぁ。
「とりあえず! 今日は無理だし、明日からクレイたちは発掘に出かけるはずだから、説明は一週間後、クレイたちが休みの日。それまでに色々調べてみたいこともあるし」
「エマの好きなようにしたらいいんじゃない? ワタシも、知識の更新をしないといけないから、別行動するわね」
そう言って、ラシャは風の入れ替えのために開けていた窓の隙間から、外へと出て行ってしまった。
創った自分が言うのも何だけれど、喋らなければ、本物の猫そっくりだ。
町を歩いている間に、野生や飼い猫もちらほら見かけたので、この時代にも猫はいる。
人に見つかっても、いきなり捕獲されるなんてことはないだろう。
「さてと、説明も考えなくちゃいけないけど、まずはこっちよね」
私は創った火炎の魔道具を見つめる。
試しにもう一度、出力を最小なことを確認してから、作動させてみた。
すると、さっきと同じくらいの火柱が上がる。
今度は心の準備ができていたので驚くことはない。
「やっぱり……出力がおかしくなってる。こんなに強いはずないのに」
火を消して、火炎の魔道具を入念に調べる。
ありえないとは思うけれど、どこかで創り間違いをしているのかもしれない。
「うーん。どこもおかしくないわね。そうなるとおかしいのは出力の方……」
私はいくつか仮説を立てたところで、少し困ってしまった。
自分の立てた仮説が正しいか、それとも間違っているかを調べるためには、実際に実験をしてみるしかない。
ところが、魔道具を持っているだけでおかしな時代に来てしまったのだ。
そこら辺で試しに使ってみるわけにもいかない。
しかも、創ってしまったのは火炎の魔道具。
最小出力でさえ、室内で使うのは危なさそうなのに、これ以上出力を上げた実験なんてできるわけがない。
「となると……人がいないところに出かけて、こっそり調べるしかないわね……」
私は、とうとう町の外へ出かけることを決心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます