◆質問箱◆ 「お優しい」「お上手」の「お」はどういう用法ですか?

 今回は、1月の「Column2 格助詞『を』のとある一面」に、柊圭介さんより質問がありましたので、それに回答したいと思います。


Q、なるほど厳密にいうと違いますね。助詞のお話とても興味深いです。


ところで前にあった「お」を言葉のあたまにつける話ですが、あれは形容詞につけてもいいんでしょうか。「お優しい」とか「お上手」とか言いますけど。丁寧な言い方というのは分かりますが、基本的に形容詞に「お」はつけないですよね。

これはどういう用法なんでしょう?



A、接頭の「お」についてのご質問ですね。

 辞書を引いて調べてみたところ、形容詞や形容動詞にも「お」が付く用法はあるようです。『明鏡国語辞典』を開いてみると、こんな風な書き方がしてあるので、以下に引用致します。


【お】『明鏡国語辞典』

[接頭]名詞、動詞連用形、形容(動)詞などの上に付く。基本的に和語に付くが、一部の漢語・外来語にも付く。


 このように書いてあります。


 柊さんの質問に回答する前に、以前書いたEpisodeで訂正したいことがあります。

 私は以前「Episode1 『お配りよろしくお願いします』」のところで、外来語には「お」は付かないので「おビール」という言い方は不適切です、と申し上げました。

 しかし、今回改めて「お」について調べたところ、「おビールなども『お』と付くことがある」と辞書に記載されていることが分かりました。私が最初に確認した資料には、「おビール」が誤りだと書いてあったのですが、少し古いものだったようです。どうやら長い間使われるようになり、認められた用法のようでした。

 ただ、これは人によっては受け入れない方もいらっしゃるので、使うときは注意が必要かもしれません。

 他にも「おニュー」「おソース」なども日常的に使うものは、一部の辞書が認めています。


 訂正失礼いたしました。今度こそ回答の内容に入ります。

 形容詞や形容動詞に使うときの「お」の用法ですよね。

『大辞林』で調べてみたところ、尊敬や丁寧な意を表すとありました。また「上品に表現する」という用法もあるようで、例えば「相変わらず、お美しいですね」という「お美しい」はこれに当てはまります。そのため、柊さんが挙げて下さった「お優しい」というのは、「上品な言い方をする用法」とか「丁寧な意を表す用法」と言って良いと思います。

 もう一つ、例を挙げて下さいましたね。「お上手」の元の形は「上手」ですから、それを辞書で引くと、形容動詞のほかに名詞の用法も出てきます。その時々によって品詞が変わるということですが、「お上手ですね」といういい方であれば名詞ですので、例えばAさんが何か行った行為に対して、Aさんを高める言い方をしている、尊敬の表現ということになります。


 ちなみに接頭語の「お」が形容詞や形容動詞に付く用法は、他にもあります。

 例えば「お恥ずかしい限りです」というのは、自分を低めるとき(謙譲や卑下する意味があります)に使う用法です。

 またからかいや皮肉を込めて言うこときもあります。イチャついているカップルに対して「お熱い仲ですね」と言うのは、皮肉の用法の一つですね。でも、今はあまり言わないでしょうか。「リア充だなぁ」と言うのかもしれませんが、どうなのでしょう(笑)


「お」が付く語と付かない語を区別できるのかどうか調べたところ、実は難しいことなのだそうです。

『敬語再入門』(菊地康人/講談社)には、「『お』を付けるか付けないかは、究極的には習慣の問題」と書いてあります。その理由は「明確なルールがあるわけではないから」。その上個人差もあるようです。もしかすると、地域によっても違うかもしれません。ちなみに、接頭語「ご」が付く言葉はリスト化出来るくらいの数ですが、「お」は膨大にあって簡単ではないようです。


 それくらい「お」を付けられる言葉が沢山ある、ということではあるのですが、音の相性はあるようです。

「お」が頭に付く言葉には接頭語の「お」を付けにくいな……と思った方もおられるのではないでしょうか。

 例えば「お穏やかではありませんね」とか「お応対して下さい」とか。聞いたことがないですよね。「お送り下さい」や「お教え下さい」はしっくりくるのに不思議です。これはきっと、音声学の分野でしょうね(笑)

「お穏やか」というのは話しにくいというのもありますが、とにもかくにも音として「何か変だな」と思うから使わないのでしょう。そういう感覚が私たちには備わっているようです。


 ついでなので「御御おみ」についてご紹介いたしましょう。

御御おみ」は接頭語です。これが生まれた一つの説として、「お」の重なりをさけたものと言われることがあります。

 例えば「おみ帯」は「御御おみおび」と書きます。帯のことをいう女房詞にょうぼうことばです。女房詞、ここにも出てきましたね。どうやら「御帯おおびと言いにくかったから」らしいですが、昔の女性たちは言葉を丁寧にしたり、美しくしたりすることに長けていたんだなぁと、調べていてしみじみ思います。


 説明は以上です。

 いかがだったでしょうか。お役に立つ回答だったら幸いです。

 ご質問ありがとうございました。

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