Column4 「的を射る」と「的を得る」

 過去のColumnかEpisodeで、「的を射る」と「的を得る」について書いたような気がしたのですが、どうやらメインでは書いていなかったようです(しかし、どこかの内容と被っていたらすみません)。ということで、今回はこの二つの話をしようと思います。


「的を射る」と「的を得る」について、皆さんはどのような考えをお持ちでしょうか。世間一般として多い意見は、「『的を射る』が正しく、『的を得る』は誤り」というもの。

 しかし、『三省堂国語辞典』でこれらについて引いてみると下記のことが書かれています。


【的を射る】『三省堂国語辞典 第八版』

①うまく まとに当てる。

②大切なところを正確に指摘する。急所をつく。正鵠せいこくを射る。的を得る。


【的を得る】『三省堂国語辞典 第八版』

「的を得た表現」

●「的を射る」「的を得る」とも、特に戦後広まった言い方。「得る」は「要領を得る」などと同様、「うまくとらえる」の意味。同義語「正鵠を<射る/得る>」も二通りの言い方がある。


 私は『三省堂国語辞典』シリーズは、第七版と第八版しかもっていないので、それ以上昔にさかのぼることが出来ないのですが、2018年当時同志社大学の日本語日本文化学科の吉海 直人氏が書いた記事には、「的を得る」を最初に誤用としたのは、1982年に発行された『三省堂国語辞典』の第三版であることが記されています。

 その後、長い研究を経て第七版のときに「的を得る」も正しいことを改めたということのようです。

『三省堂国語辞典』は、ある意味「的を得る」を誤用として広げた一つだといえますが、人が作ったものですから、こういうことがあるのもやむを得ません。ただ、その後、誤用であることを押し通すのではなく、誤っていたことを反省し、修正したことは、逆に信頼に値します。

 きっと当時の辞書編纂者も、「的を得る」が誤用であることを疑わなかったことでしょう。しかし、その後の研究や調査で誤っていたことを認められたということは、すごいことです。それは簡単なようでいて、本当に、本当に難しいことだと思いますから。

 ただ、これからの研究で、また新たな情報が出てきて「的を得るは誤りだ」ということもあるかもしれません。しかし、そのころに多くの人が「的を得る」を使うようになっていたら、誤用とも言えなくなるかもしれませんが。

 

 ちなみに、これらについて何故二通りの言い方が生まれたについて、吉海 直人氏は「中国から伝来した『正鵠を得る』や、『的を射る』に似た『当を得る』などと混同されたためだろう」と書いています。

 また「正鵠を得る」についても、誤用として「正鵠を射る」が生じていると書いてあるのですが、これについては『明鏡国語辞典 第三版』『新明解国語辞典 第八版』『三省堂国語辞典 第八版』『新選国語辞典 第十版』『岩波国語辞典 第八版』で、「正鵠を射る」が許容されています。

 特に『岩波国語辞典』は、新しい言葉や新しい使い方について、慎重に検討して項目に載せる傾向があるので、その辞書に「正鵠を射る」が容認されているのであれば、これは一般的な言い方として浸透しつつあるということが言えそうです。



【参考URL】

「的を得る」と「汚名挽回」─三省堂国語辞典の訂正をめぐって─

https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/2018-07-25-12-36

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