Column2 格助詞「を」のとある一面

 ――湯を沸かす。


 何の変哲もない一文ですよね。しかし、よくよく考えてみると不思議ではありませんか。何故「水を沸かす」ではなく「湯を沸かす」なのでしょうか。

 他にも例文を挙げてみます。


 ——穴を掘る。

 ―—ご飯を炊く。

 ――服を縫う。


 これらも同じようなことが言えます。

 なぜ、穴を掘ったところを掘るのでしょう。ご飯だって、お米を炊くものではありませんか。服を縫うもしかり。

 では、この用法は間違っているのでしょうか。

 いえいえ、実は格助詞「を」には、このような使い方が備わっているのです。

 上記に挙げた例文で使われている「を」は、「材料ではなくことが決まっている」格助詞なのです。これを「結果目的語」と言います。実際に辞書を引いてみましょう。


【を】『明鏡国語辞典 第三版』

❺《下に生産や発生を表す動詞を伴って》動作・作用の及ぼされた後の物事(=生産物や変化の結果)を対象として示す(結果目的語)。

「紙でツルを折る」

「卵からひなをかえす」

「炭を焼く」

「湯を沸かす」

「ご飯を炊く」

「家を建てる」

「地面に穴を掘る」

「字を書く」

「ホームランを打つ」

「企画を立てる」

「浴衣を縫う」

「毛糸のセーターを編む」

「やぐらを組む」

「向こう岸に橋を渡す」

「事件を引き起こす」

「災害をもたらす」


 これらは格助詞「を」のなかにある、一つの性質です。

 その一方で「水を沸かす」という用法もあります。それは「対象目的語」といって、「結果目的語」とは違う用法であることが分かります。


【を】『明鏡国語辞典 第三版』

❹《下に生産・発生・消滅などを表す動詞を伴って》変化する前の物事(原物や材料)を対象として示す(対象目的語)。

「卵をかえす」

「水を沸かす」

「丸太をいかだに組む」

「大金を費やす」


 いかがでしょう。これが格助詞「を」のとある一面です。

 辞書によって違いますが、助詞や助動詞について引いてみると、とにかく沢山の用法が出てきます。それくらい、助詞には色々な意味や使い方が含まれているんですね。

 ちなみに「パンを焼く」は、結果目的語になる場合と対象目的語になる場合の二つのパターンがあります。

 結果目的語になるパターンは「パン生地を焼いてパンを作るとき」、対象目的語になる場合は「すでにパンとして出来上がっているものをトーストするとき」です。ほかにも一つの言い方のなかに、状況や場面によって格助詞「を」の用法が変わる文章があります。

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