★NIHONGO小話☆ 「破天荒」の意味

 意味を取り違いやすい言葉に、「破天荒」があります。

「荒っぽい」「型破り」という意味で使っている方もいらっしゃるようですが、本来は「今までだれも成し得なかったことを初めて行うこと。未曽有。前代未聞」(『明鏡国語辞典 第三版』より)という意味です。

 中国で生まれた言葉で、由来について『明鏡国語辞典 第三版』では下記のように説明しています。


 唐代、荊州けいしゅうからは進士の合格者が一人も出なかったので、その地を「天荒(=不毛の地)」と言っていたが、やがてついに劉蛻りゅうぜいが合格したとき、人々は天荒を破ったと言ったという故事に基づく。

(補足:進士とは、科挙(官吏登用試験)の科目の一つです)


 このような理由からも、「荒っぽい」とか「型破り」「常識外れ」「無鉄砲」という意味ではないことがお分かりいただけると思います。しかし、実際には本来の意味ではないほうで、認識していたり使っていたりすることも多いようです。


 この点について、辞書はどのように考えているのか。それぞれ引いて確認してみました。

 私の手元にある辞書を全て引いたところ、多くのものが本来の意味を重視することが書かれ、補足として「荒っぽい」という意味で使うことは誤りであることが記されていました。


 一方で『三省堂国語辞典』には、第七版、第八版ともに俗語としてではありますが「型破りで豪快なようす」という意味が載っていました。ということは、この意味が広がりつつあることを示しています。


 また、同じ三省堂から出ている『現代新国語辞典 第六版』にも、「型破りだ」という意味が載っていましたが、注意書きに「(今までだれもなしえなかった、思いもよらないことをするようすが)本来の意味」という風に記載されていました。この辞書は、高校生向けに作られた辞書なので、きちんと元の言葉を知る必要があると、辞書編纂者の計らいがあったのでしょう。


 ついでに、同じ三省堂で、語釈が独特だと言われている『新明解国語辞典』は「豪快で大胆な性格の意に用いるのは誤り」と記載されていました。同じ出版社から出ているのに、性格が違うというところが、辞書の面白いところです。


「破天荒」の俗語の意味を使う人が多くなってくれば、『三省堂国語辞典』に記載されたように、他の辞書にも掲載されることになるかもしれません。


 ちなみに、このように人によって捉える意味が二つに分けられてしまうようなものは、新聞などでは使いにくい言葉のようです。

 

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