これは身分や種族の異なる5人の旅の物語であり、それぞれの戦いを描いた群像劇である。
綿密に練られた世界観を軽快でわかりやすい文体で語っており、非常に読みやすい。
5人の旅人のそれぞれの魅力と微妙な関係性、彼らが次第に仲間になっていく様子を、自分も6人目の仲間であるかのような臨場感を持って観察する事ができる。
それだけにこの物語の結末にはビターな喪失感を禁じ得ない。
個人的には、ハッピーエンドであると思う。だが仲間と過ごした時間が楽しかったからなのか、作者の筆致により惹き込まれたこの世界にもう少しだけ留まりたいと願ってしまうからなのか、旅の終わりに男が見上げた空には切なさの色を感じずにはいられない。
敵の魅力も十二分で戦闘描写も非常に納得感があり、戦記としての読み応えも充分。
本作の凄い所は、最初から一気に引き込む物語の力にある。
いわゆるホットスタートであり、序盤から押し流されるように物語の中へ叩き込まれる。
文章は非常に理解しやすく情景も浮かぶ。それでいて簡潔でくどくないので、文章自体は短くまとまっている。
結果として文章量に比して非常に濃い内容がつづられ、満足感がある。
人物は魅力的かつ特徴的で、しかも納得感がある。あるべき所にあるべき人物がいるという印象だ。
敵も誇り高く尊敬すべき敵であり、まさに倒すに相応しい。
いかに優れた敵を用意できるかという点は、戦闘を山場に持ってくる作品にとって特に重要であるが、本作はその点抜群であった。
短く読みやすいのに圧倒的な物語。
若年層から大人まで自信をもって勧められる逸品。