第31話 親友と演技

 あれから何とか智也ともやを説得し、迎えた翌日の昼休み。

 作戦を伝えられた小春こはるも恥ずかしがっていたが、一晩明けて振り切れた彼に手を引かれて半ば強引に決行となった。

 段取りとしては、初めに他クラスに入って智也の友人たちと会話をする。小春は話す必要はないが、とりあえず彼にくっついていればいい。

 そうやって色んなクラスで恋人臭を振り撒けば、手紙の主はこっそり見ているだけでは我慢できなくなり、真実を確かめに動くはずなのだ。


「あはは、お前らガキかよ。1年の時と会話のレベル変わってねぇ」

「智也の方は大人の階段昇ったってか? 小春ちゃんとの距離、随分と近いよな」

「……まあ、これは色々あってな」

「ヒューヒュー♪」

「茶化すなって」


 そんなやり取りを全てのクラスでやって、小春の存在と2人の距離の近さをアピールする。

 暁斗あきとからすれば、どんな生き方をすればここまで交友関係を広げられるのか不思議で仕方が無いが、おかげで作戦は上手く行きそうだった。


「……よし、これで放課後辺りにアクションを起こすだろうな」

「2人ともお疲れ様」

「おう。小春も疲れただろ、慣れないことさせて悪かったな」

「だ、大丈夫、平気だよ!」

「……」

「……」

「…………えっと、そろそろ離れないか?」

「あっ、ご、ごめんね……」


 恋人の演技のために組んでいた腕を離した彼女は、どう見ても物足りないという顔をしている。智也の方もそれは同じだ。

 そんな初々しい空気に、クラス内の体感温度が1度ほど上昇する。みんなの視線も生温かい。


「成功するといいけど」

「大丈夫だ、頑張ったんだからな」

「でも、手紙の主を刺激したわけだよね。智也が近くにいて守ってあげるべきじゃない?」

「言われなくてもそのつもりだ」

「さすが。見た目の割にいざと言う時頼りにならないくせに、関口せきぐちさんのことになるとかっこいいね」

「は、はぁ?! そんなふうにからかうなら俺は守ってやらねぇし!」

「意地張っちゃって」

「別にそんなんじゃ―――――――――」


 ケラケラと笑う暁斗に反撃をしようと口を開いた智也は、クイクイと制服を引っ張られて振り返った。

 そこに立って上目遣いで見上げていたのはもちろん小春。彼の頑固さも、彼女のこの一言には溶けてしまったらしい。


「智くん、小春は大丈夫だから……ね?」


 明らかに気を遣っている様子に智也はわしわしと後頭部をかくと、深いため息をついてから「そばにいてやるって」と呟いた。


「ほ、ほんと?」

「当たり前だろ、幼馴染なんだから」

「えへへ♪ 智くん、かっこいいね」

「……ふん、今更気付いたのかよ」

「ずっと前から知ってるもん」

「そ、そうか……」

「う、うん……」


 自分で言っておいてお互いに照れ合う初々しい2人に、そのやり取りを聞いていた全員が『さっさと付き合え馬鹿野郎』と思ったことは言うまでもない。

 その後、イチャイチャしている2人はその場に残し、暁斗は先に自分の席へと戻った。が、誰かが勝手にイスを持っていったらしい。

 かと言って他の人のを借りたら、イス無しの負の連鎖を起こしてしまうので、今日は空気椅子で我慢するかと諦めかけたその時。


「……」トントン

「ん? あ、柳田やなぎださん」

「……」ペコ

「どうも、今朝ぶりだね」


 柳田やなぎだ 冬優ふゆゆが話しかける……というより肩を叩いて視線で語りかけてきた。

 ジェスチャーから察するに、イスがないなら自分のを貸してあげるということらしい。確かに彼女の席は隣ではないものの、暁斗の斜め後ろだからそう遠くはない。

 彼が「ありがたく使わせてもらうよ」と伝えると、冬優はこくりと頷き、トコトコと自分の席まで戻った。

 案内なんてしてもらわなくてもいいのにと思ったが、彼女は何故かイスに腰を下ろしてしまう。話が違うでは無いか。


「えっと、貸してくれるんじゃ……」

「……」コク

「座っちゃってるけど……」

「……」コクコク


 これでいいと言わんばかりに頷いた冬優は、少し体を左へ移動させると、イスの半分空いたスペースをポンポンと叩く。

 どうやら全部貸してくれる訳ではなく、半分貸すという主張だったらしい。

 確かに、言われてみればジェスチャーで表されたイスがやけに縦長だった気がしなくもなかった。


「や、やっぱり遠慮しとこうかな……」

「……」シュン

「いや、嫌とかそういう意味じゃないよ?!」

「……」ジー

「そ、そんな目で見ないでよ……」


 この時、暁斗が冬優は大人しそうに見えて、意外と積極的な性格なのだと思い知ったことは言うまでもない。


「……いや、男女とか気にしてないだけなのかな」

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