第30話 僕と作戦

「僕は何のために呼ばれたの?」

「ああ、小春こはるは手紙を書いた相手を見つけて返事をしたいらしくてな」

「手紙には名前もないし、どこかに来て欲しいって指定もないからね。無理じゃないかな」

「いいや、ひとつだけ方法がある」

「どんな?」

「とりあえず、昼休みになったら着いてこい」


 そう言われた暁斗あきとは、結局作戦を教えられないまま授業が始まる。

 そして約束の昼休み。一緒に昼食を食べ終えた2人は、こちらへ目配せをしてから教室を出る小春を少し距離を置きつつ尾行を開始した。

 彼女が食堂でデザートを買ってくるという設定だが、わざと他クラスの前を通る遠回りな道を選んだのには、智也ともやの導き出したひとつの仮説が関係している。


「小春の知らない奴ってことは、おそらくクラスメイトじゃない。そしてあいつは他クラスと交流をするようなタイプでもないだろ?」

「まあ、よくは知らないけどそうだろうね」

「関わりもない男子が小春のことを好きになった。それはつまり、頻繁に見てる可能性があるってわけだ」

「ストーカーってこと?」

「いやいや、そこまでじゃない。見かけたら目で追っちまうとか、その程度のことだ」

「なるほど」


 要するに、他クラスの前を通って執拗に彼女を見つめる視線があれば、そいつの可能性が高いということ。

 自らそんな作戦を立てておきながら、一切小春から視線を逸らさず警戒し続ける智也に、確かに目は口ほどに物を言っているなと思う暁斗であった。


「でも、上手くいかないと思うなぁ」

「どうしてだよ」

「智也、周り見てないでしょ。それだと怪しい人なんてわかるはずないし」

「そ、そう言われると確かに……」

「理由はそれだけじゃないよ。すれ違う男子を見たら分かると思うけど」


 彼の言葉に視線を周囲に散らし始めた智也は、少しして「……ほんとだな」とため息をこぼす。

 熱い視線を送っているやつが怪しいという考えは、確かに間違いではない。むしろ、正解の可能性すらあった。

 だが、彼女の場合は少し勝手が変わってくる。そのことに幼馴染としてずっと近くにいた智也は、分かっているようで分かっていないのだろう。


関口せきぐちさん、可愛い上に一人でいるの珍しいからね。みんな振り返っちゃってる」

「……作戦失敗ってことか」

「ここぞとばかりに話しかけようとする男子までいるし、手紙を書いた人が居ても紛れちゃうんじゃない?」

「それもそうだな。別の方法を考えるしかないか」


 智也はガックシと肩を落としたものの、一応最後まで作戦をやり通し、教室に戻ってから改善点をずらりと並べ始めた。

 何か一つを思いつけば「ダメだ、小春が危ない」とボツにし、また一つ思いつけば「人見知りなあいつには無理だ」と紙をクシャクシャに丸める。

 それを繰り返し続けた結果、結局昼休み中には思いつくことが出来ず、5、6時間目中も考え続けて先生に注意されたりもした。

 それでもこっそりと悩み続ける彼の様子に、暁斗だけでなく小春自身も思わず頬が緩んでしまう。

 これだけ自分のことを真剣に考えてくれる幼馴染……しかも好きな人となれば、嬉しくなってしまうのも頷けた。


「そうだ、智也」

「どうした?」

「いい案を思いついたんだけど」


 そして放課後、未だに頭を悩ませている智也を眺めていた暁斗は、ふと頭に浮かんだ作戦を提案してみる。

 さすがに即決で採用とはならなかったものの、成功する見込みはあるとのこと。

 しかし、決行するには彼にとって大きな問題がひとつだけ存在するのだった。


「お、俺が小春の彼氏を演じる?! そ、そんなの無理っていうか……あいつも嫌だろ!」


 演技をして釣り出すという作戦だと言うのに、彼氏役をするべき智也自身が恥ずかしがってしまうという問題である。

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