第29話 僕と手紙
彼は先程から
ただ、暁斗も親睦会のおかげで
友人と呼んでいいのかどうかは分からないが、少なくとも知らない関係では無いので、大人しく呼ばれるがまま近付いてみる。
「どうしたの?」
「ちょっと
「小春って……
「ああ、そうだ」
背が低くて人見知り、グループの誰かが男子と会話する時はいつも他の3人の背中に隠れているイメージがある。
ただ、小学校からの幼馴染である智也にだけは心を開いているようで、家が隣だからと一緒に帰っている姿も何度か見かけていた。
そんな小春に関する悩み……かどうかはまだ分からないが、暁斗には幼馴染以上にいい考えが浮かぶとは思えない。
「実は今朝、校門前で小春がいきなり告白されたらしいんだ」
「それはおめでとうだね。智也からしたら悔しいと思うけど」
「ちょ、余計なことを……っていうか、別に好きじゃねぇよ!」
「
「いやいやいや、そんなわけないだろ?」
「あーあ、智也の女泣かせ」
「橙火、お前なぁ……今のは暁斗が悪いだろ!」
目をうるうるとさせる小春に、こちらへ責任を押し付けようとしていた彼も観念して謝り始めた。
客観的事実を口にしただけの暁斗にも少しは非があるので、一緒になって頭を下げておく。
この様子から見て分かる通り、智也は小春のことが好きだ。そして小春も智也のことが好きだ。
お互いに好き同士であることを周囲の全員が認識しているにも関わらず、彼ら自身はその事に気付かないまま隠し通しているつもりらしい。
だから、たまにこうして背中を押してあげる必要があるのだが、内気と強がりがくっつくのはもう少し先のことになりそうである。
「それで、告白されたことの何が問題なの? YESかNOで答えればいいだけじゃない?」
「非モテのお前には分からんかもしれないがな、告白の返事ってのはそう簡単じゃないんだ」
「酷い言われようだよ」
「間違っちゃいないだろ」
「まあね。でも、傷ついたからデコピン1発ね」
そんな男子らしいやり取りを橙火が意味深な目で見ていた気がするが、そんなことはさておき。
小春の件で問題なのは告白の返事云々の前に、渡された手紙の方らしかった。
「へえ、綺麗な字だね」
「真面目なやつなんだろうな。だが、必要なものが抜けてないか?」
「……あ、名前が書いてない」
「そうなんだよ。小春も知らない奴らしいから、誰に返事をすればいいかもわからないんだ」
「顔を見たら思い出すんじゃない?」
「こいつ、人見知りだろ? 声で知らないやつだって判断したから、顔は全く見なかったらしい」
「それだと手がかりはゼロだね」
「ああ、見つけられる気がしねぇ」
智也目線ではドキドキだろうが、暁斗の視点では小春はもちろん告白を断るはずだという確信がある。
だが、せっかく手紙まで貰ったのだから、返事すらしないというのは失礼だと思ったのだろう。
相手にとって返ってくる言葉が良いものであれ、悪いものであれ、勇気を出したことに対するレスポンスは存在するべきだ。
「でも、手紙を持って聞き込みするわけにもいかないもんね」
「そんなことしたら公開処刑だぞ。俺なら学校に火をつけて手紙ごと燃やす」
「智也は手紙なんて柄じゃないでしょ」
「そういうギャップがいいんだよ、な?」
同意を求められて「う、うん……!」とどこか力強く頷く小春。そんな彼女を眺めながら、暁斗がふとこう思ったことは言うまでもない。
「……あれ、僕が呼ばれた意味って何?」
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