第24話 僕とワンコ
翌日、「昨日も一緒に居られなかったにゃ!」と怒るねね子をサラミで説得し、何とか放課後に
と言っても、
初めて
「さあ、入って入って」
「お邪魔します……」
手招かれて入ったのは、以外にもしっかりとした一軒家。事前に親とは離れて暮らしていると聞いていたため、てっきり自分と同じようにマンション住まいかと思っていたのだ。
「親と離れて暮らしてるって言うのは?」
「ああ、ウチの親は共働きでな。ちょうど高校生になった頃に2人とも本社に転勤になったんや」
「なるほど」
「かと言って、ローンのある家はどうにかしないといけへんし、ウチかて友達もいくらか出来てきた。連れていくのは可哀想やと思ったんやろな」
「それで女の子をひとり暮らし……?」
「大丈夫や、番犬もおるしな」
そう言いながらリビングへと向かった彼女は、「ご主人様のお帰りやで」と声をかける。
それを聞いたワンちゃんは、奥のほうに置いてあったベッドから起き上がって橙火へと駆け寄ってきた。
「ほら、可愛ええやろ?」
「あ、うん。可愛いけど……番犬なの?」
「ポメラニアンやからって舐めたらあかん。このイグドラシルはこう見えて凶暴やで」
「イグドラシル?!」
「強そうな名前やろ? 普段はドラちゃんって呼んどるわ」
「あ、急に親しみが……」
イグドラシルでは何だか恐ろしいイメージもあるが、ドラちゃんなら地球〇壊爆弾でも出さなければある程度安全だ。
ただ、名前だけで番犬が務まるかと言われれば、それはどうだろうかと首を傾げざるを得ない。
例えば、暁斗自身が橙火に襲いかかったとして、ドラちゃんは助けに入ってくれるのだろうか。
「ねえ、
「橙火でええよ。秋野やと、暁斗くんと被っとるし」
「じゃあ、橙火さん。ちょっとイグドラシルを試してみてもいい?」
「ナイスなアイデアやな、やってみよか」
彼女からの了承も得られたところで、彼は深呼吸をしてからできる限り悪そうな笑い方をして見せる。
そして橙火の肩を掴むと、いかにも悪そうな顔で引っ張って見せた。
「嫌や、やめて!」
「逃げられないぞー」
「お金ならいくらでも払うからぁ!」
「へへへ、騙されねぇぞー」
ドラちゃんはご主人様の迫真の演技をじっと見つめている。しかし、何かをするでもなく、しっぽを振りながらソファーの上でお座りをしてしまった。
「全然助けに来ないよ?」
「ドラちゃんの目が言ってたわ。『はいはい、演技ね。お見通しなんですけど』って」
「そこまで賢いの?!」
「出来る番犬過ぎて、ウチらの作戦も見透かされたんやわ。さすがドラちゃんや」
「こじつけな気がするんだけど……」
いまいち納得のいっていない暁斗に、橙火は「じゃあ、番犬らしいところ見せたるわ」とイグドラシルをこちらへと呼ぶ。
そして「鬼ごっこ、ドラちゃんが鬼やで」と伝えると、途端にグルル……と唸り始めた。
「暁斗くんは逃げる側。よーいどん!」
「え、ちょ……」
「わんわん!」
突然の鬼ごっこ開始の合図に、彼は慌てて逃げ出す。が、2秒後にはドラちゃんに体当たりされ、床に転ばされてしまう。
この瞬発力と、しっかり標的を標的として捉える認識力。確かにこれなら番犬も務まるかもしれない。そう思えるような早業だった。
「じゃ、負けた暁斗くんには罰ゲームや」
「そんなの聞いてないよ……」
「こういうのには付き物やろ? つべこべ言わずに従いや」
「……わかったよ」
その後、暁斗はお手とおまわりをさせられ、先輩わんこであるイグドラシルから『もっと上手くやれる』と言いたげな目で見つめられるのであった。
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