第23話 僕と代償
あれからお菓子を食べたり、ゲームをしたりしているうちに時刻はもう午後6時。
オレンジ色の光が室内に差し込み始めた頃、
「……起きないね」
「……起きんね」
揺らしても叩いても、「火事だ!」と叫んでも相変わらず気持ちよさそうにいびきをかいている。
そろそろ帰らないと暗くなってしまう時間だと言うのに、
「まあ、ウチはこう見えて力持ちやし、智也くらい背負って帰れんこともないわ」
「それは色々と問題があるんじゃ……」
「……ちょっとは視線が気になるやろな」
それならば自分が背負って連れて行こうかとも思ったが、橙火に「それやと暁斗くんが帰る時こそ真っ暗やろ」と止められてしまう。
そうは言っても他に手段は無いし……と首を捻っていると、彼女が「もう少ししたら起きると信じて待つわ」と腰を下ろした。
随分と呑気だと思いつつも、それが全員にとって一番いい結末でもあるので、暁斗も少し間を開けた場所に座る。
「今日、楽しかったなあ」
「僕もだよ」
「暁斗くん、めちゃくちゃ来るの拒んでたやろ?」
「あ、うん。そう言えばそうだったね」
「その理由、ウチ分かった気がするわ」
「……へ?」
2人が遊びに来るのを拒んだ理由……つまり、ねね子のことがバレてしまったということになる。
そんなことはありえないとは思いながらも、真っ直ぐに見つめてくる瞳からは目が逸らせなかった。
「その理由はなぁ」
「……」
「ふふ、女の子慣れしてないからやろ!」
「……ん?」
「あ、あれ? ちゃうかった?」
おかしいなと言わんばかりに首を傾げる彼女は、猫のクッションごと移動してきて、肩をわざとらしく触れさせてくる。
どうやらこちらの反応を伺っていたようで、「暁斗くん、ウチにやたら気を遣っとったやん」と不満そうに頬を膨れさせた。
「それは……まあ、言う通りかもしれない。でも、それが理由ではないよ」
「なんや、外れとったんか。こんなもん見つけたから、てっきりそういうもんかと……」
「こんなもん?」
「そう、こんなもん」
小さく頷いた橙火は服の中に手を突っ込むと、薄い板のようなものを取り出して見せてくる。
彼はその正体を知って顔を青ざめさせると、大慌てで取り返そうとしてひょいとかわされた。
その勢いで彼女の方へと倒れ、思いっきり両太ももを鷲掴みしてしまうが、発しようとした謝罪の言葉は聞こえてきた呟きによって別のものへと変換される。
「ふーん、やっぱりこのビデオみたいなことしたいんやね?」
「ち、違うよ! 今のは不可抗力と言うか……」
「誰にも触られたことのなかったのになぁ。これは、暁斗くんには責任を取ってもらわんと」
「責任……?」
「せやせや、いいこと思いついたわ。ウチのために働いてもらおか」
責任を取って労働……つまり、橙火の奴隷同然の存在になるということ。そんな方程式が頭の中で組み立てられ、思わず身震いしてしまう。
正直、暁斗は彼女がどんな人なのか分かっていない。その言葉がただのからかいなのか、それとも本気なのかすら読み取れないのだ。
しかし、太ももの代償は絶対に逃れられない。「誰かにこのビデオのこと、話されてもええん?」と脅されれば、差し出された右手にお手をすることしか出来なかった。
「ええ子やね。じゃ、明日の放課後にウチの家に来てくれへんかな。場所はRINEで送るわ」
「か、監禁される……?」
「安心しい。酷いことはしたりせぇへん、少しばかり雑用してもらうだけやわ」
そう言いながら怪しげな笑みを浮かべる橙火に、彼が智也が目を覚ますまで何も話せなくなってしまったことは言うまでもない。
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