第17話 猫と愛情
「……その、ごめんね?」
「許さにゃいにゃ!」
お風呂から上がった
その理由は、ねね子が湯気の熱さと自らの火照りで倒れるまでいじめ続けたからである。
「でも、ねね子も喜んでたんじゃ……」
「そ、そんなことないにゃ!」
「そっか、じゃあもうしないようにするね」
「うっ……」
「
「にゃ?! そ、そんにゃ……」
普通のやり方では許してくれそうにないので、嫉妬をさせて向こうから寄ってきてもらおう。
そういう作戦を思い浮かべていた暁斗だったが、おろおろとする彼女の様子に少し嫌な予感を覚えた。
「ご主人は猫耳さえあれば誰でもいいにゃ?」
「そういう意味じゃないよ」
「ねね子じゃなくてもいいのにゃ。確かにそう言ったにゃ!」
「いや、その……」
「そ、それにゃら私だって、撫でてくれるなら誰でもいいにゃ!」
ギュッと両手を握りしめ、決して目を合わせようとしないまま彼女は下唇を噛み締める。
そんな様子を見て、暁斗は自分が冗談のつもりで口にした言葉が、自分の愛情が全てのねね子にとってどれほど残酷なことだったのかに気が付いた。
「ご主人なんか……ご主人なんか……大嫌いにゃ」
彼女の声は彼女自身も驚く程に震えていて、それ以上は何も言えないと口を噤んでしまう。
そのまま背中を向けて逃げようとするねね子。彼は、そのまま逃がしてあげることなんて出来なかった。
「待って」
「は、離すにゃ、触れられたくないにゃ」
「ねね子、ごめん。他の女の子と比べるようなこと言って、本当にごめん」
「……別にいいにゃ。どうせねね子はぬいぐるみなのにゃ、人間には勝てないのにゃ」
「そんなことないよ。夏穂さんだって素敵な女の子だけど、僕にとってねね子は空気だから」
「やっぱり居ても居なくても――――――」
「違う、居なきゃ息が出来ないの」
「っ……ご、ご主人……」
暁斗はねね子を抱き寄せると、そっと後頭部を撫でながらグッと愛情を送るように念じる。
こんなことをしても意味があるのかは分からないが、自分の本当の気持ちを分かってもらうには一番の方法だと思えた。
「ねね子、本当はわかってくれてるよね?」
「あ、当たり前にゃ。愛情ポイントはずっと増え続けてるのにゃ」
「でも、言葉で否定されたら心配になるよね」
「……そうにゃ。ご主人は酷いにゃよ、胸がキュッてなったのにゃ」
「ごめん。埋め合わせになるか分からないけど、ねね子が信じられるだけの愛情を注ぐから許して欲しい」
「注ぐって……どうやるにゃ……?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、暁斗は「こうやるんだよ」と言いながら顔を近付けていく。
それで察したのだろう。一瞬体をビクリとさせたとのの、すぐに力を抜いて全てを委ねてくれた。
その姿を見て安心した彼は、控えめな自己主張をしているねね子の唇へ、自分の唇をそっと重ねる。
最初は確かめ合うように軽く触れるだけ。徐々にお互いがお互いを求め始め、彼らは呼吸をするのも忘れて繰り返しキスをした。
「ご主人……大好きにゃ……」
「僕も大好きだよ、ねね子」
ぬいぐるみと人間。それは姿を変えようと決して変わることの無い事実。
だから、暁斗もねね子もずっと一歩引いてお互いの好きを見ていた。
しかし、そこにあるのが本物の愛情である限り、いずれ自分を騙し切れなくなる時は訪れる。
彼らにとって、それが今日だったのだ。
「パンケーキ、どうしよっか」
「生地は寝かせてるのにゃ?」
「うん、冷蔵庫に入れてるよ」
「……ねね子は明日でいいにゃ」
「……そうだね、僕もお腹いっぱいだよ」
そう言って笑いあった2人が、数分後にはまたどちらからともなくイチャつき始めていたことは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます