第18話 男友達と手袋

「……んふふ」

「どうした、暁斗あきと。いつにも増して変な顔して」

「いつにも増しては余計だよ。ていうか、そんなに顔に出てた?」

「ああ、女子が見たらドン引きなレベルだ」

「き、気を付けるよ」


 ねね子と初めてキスをした翌日。暁斗は田代たしろ 智也ともやとそんな会話をしていた。

 智也は暁斗にとって(夏穂なつほを除けば)唯一と言っていい友人だが、2人の性格は全く違う。

 彼は金色の髪からも分かる通りの陽の者なのだ。しかし、理由は分からないが、仲のいい陽キャグループから時折離れては、暁斗に話しかけに来るのだ。

 初めは夏穂さんに対してのように遠ざけようとしたものの、智也は強引に距離を詰めて来ては興味のある話を持ってきた。

 そののらりくらり術にハマっているうちに気が付けば1年が経ち、今となってはこうして親しく話す仲になっているのである。


「彼女でも出来たか?」

「そ、そんなんじゃないよ……」

「そうだよなぁ。俺にもいないんだし」

「それは関係ないと思うけど」

「いや、ある! お前にいて俺に居ないのはおかしいだろ? 友達ってそういうもんだろ!」

「そんなに重苦しいものだっけ?」

「おう。何はともあれ、彼女が出来たら紹介しろよ。友達代表としてお前の黒歴史を教えてやらないとだからな」

「絶対に紹介しない」


 ケラケラと笑いながら「冗談だって!」と背中を叩いてくる彼は、ひとしきり腹を抱えてから「で、なんでニヤニヤしてたんだ?」と首を傾げた。


「何でもないよ」

「なんでもないのにニヤついてる方がキモイぞ?」

「確かに」

「何だ、ついに手袋を片方だけ落とす仕事をしてる人を特定したとかか?」

「そんな人いるの?」

「居ないなら日本人は手袋を軽く見過ぎだろ」


 言われてみれば、確かに冬に道端に落ちている手袋の数は尋常ではない。

 そもそも、道端なら手袋を身に着けて歩いているはず。なのにあれほど落とす人がいるとは考え難かった。

 ……もしかすると、本当にそういうおかしな仕事をしている人がいるのかもしれないね。

 暁斗がそう騙されかけた頃、智也と仲のいい女子がこちらへと近付いてきた。


「智也、何の話してるん?」

「ん? ああ、手袋を落とす仕事をしてる人の話だ」

「何それ、初耳なんやけど」

「暁斗がついに見つけたらしいんだよ」

「いやいや、見つけてない見つけてない!」

「あれ、そうだっけか?」


 後ろ頭をかく智也を、女子もとい秋野あきの 橙火とうかが「しっかりしいや」と肘で小突いた。

 彼女は暁斗のクラスメイトで、学校ではよく夏穂のグループと一緒にいるのを見かける。

 関西弁で話すことが多く、智也によれば周りに合わせて言葉を変えるつもりも無いらしい。


「暁斗くん、見つけたらウチにも教えてや」

「え、あ、うん……って、どうやって?」

「それもそうやな。えっとな、これに連絡してくれたらええわ」


 そう言いながら何かを書き込んだメモ帳の切れ端を手渡してくる橙火。

 暁斗がそれを受け取ると、「あの話してるから、智也も混ざりにきぃや」と言い残して戻っていく。

 一体何だったのかと手の中を確認してみると、いくつかの数字とアルファベットが並んでいた。


「それ、RINEのIDだな」

「……えぇっ?!」

「驚きすぎだろ。まあ、確かに渡したってことは追加していいって意味だもんな。あいつにしては珍しい、気に入られたんじゃないか?」

「な、何もしてないんだけど……」

「橙火はよく分からない奴だからな。有難く追加しとけ、いつか本当に妖怪手袋落としが見つかるかもしれないし」

「あれ、妖怪の話だっけ?」

「わかんねぇ」


 その後、智也は先程橙火が言っていた『あの話』をするべく、彼女たちのところへと混ざりに行った。

 その際に、「お前も来いよ、親睦会」と言っていたが、暁斗にどういう意味だかさっぱりだったということは言うまでもない。

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