第58話「二人のリーベン(Leben)」


「なるほど、そんなことがあったのか」



マリアにニュルンベルクで起きた話をしてもらい、予想の七十倍驚いているのですが・・・。


まさか、マリアにそんな壮絶な過去があって、俺にそんな痛々しくて黒歴史になる過去があったとは思わなかった。


そして、もう一つ思ったことがある。



「マリアの話が正しければ、俺が交通事故に遭ったのって、マリアが俺の背中を押したのが原因なんじゃ・・・」


「Exactly!」(和訳:その通り!)


「いやいやいやいやいや、その通りじゃないよね? 普通に犯罪だよね?」



笑顔でExactlyと言ったかとおもえば、少し俯いて、沈んだ表情でかつ日本語で言う。



「ごめんなさい。でも、忘れてほしかったから」


「どうしてだ?」


「愛斗は、いつまでも気に病むタイプだと思って」



なるほど。確かに、俺はそういう性格をしているのかもしれない。


だけど、だからと言って交通事故に遭わせるなんてな・・・。


死んでしまったらどうするつもり・・・死ぬ?



「マリアさん。もしかして、殺す気だった?」


「Exactly!」(和訳:その通り!)



恐ろしい子!?



「でもね。それでも良かったの。警察に捕まれば、辛い毎日からも解放されるんじゃないかなって。そう思ったから」



そんなふざけたことを言うので、自称温厚な俺でもさすがに頭にくる。


だから、マリアのこと、思いっきりぶっ叩いてやりましたよ。


多分、すごく痛かったでしょう。だけど、ふざけたことを言うマリアがいけないのです。



「そんなこと思っちゃダメだからな? わかった?」


「うん・・・ごめんなさい」



泣きそうなマリアが、頬を手で押さえながら謝る。


まぁでも、俺の記憶がない期間のことが全てわかって、心の奥底がスッキリした気分だ。


マリアの件については、俺の前方不注意ということでコトが片付いているみたいだし、今からえぐるようなことをするつもりはない。


まぁ、今こうやって楽しく暮らせてるからね。



「ごめんな。痛かったよな」


「大丈夫。それで、愛斗は私と結婚してくれるの?」



この子この状況でよくそんなこと言えたな。



「あぁ・・・やっぱそうなるんだよな」



まぁそういう話でしたもんね。



「今はできないよ」


「why?」(和訳:どうして?)


「もっと、真剣に君を愛したいから」



なんか、言ってて物凄く恥ずかしくなりました。


だけど、それが俺の考えだ。


マリアは今までどう思ってきたか知らないけど、少なくとも、俺はマリアのことを恋人だとは思ってこなかった。


だから、急に結婚しようなんて、そんなことはできない。



「Can you love me」(和訳:私のこと、愛してくれる?)


「今から、時間をかけてね」



それを聞いたマリアは、満面の笑みを浮かべた。


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